HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2022年12月26日号 (通算22-17号)

年末年始のお知らせ!

HAL財団の年末年始休業日は以下の通りになります。
皆様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご了承いただきますようお願い申し上げます。

■年末年始休業日
2022年12月29日(木)~2023年1月5日(木)

※2023年1月6日(金)から、業務を行います。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1252/

2022年12月21日号 (通算22-16号)

書籍紹介 「『誰が農業を殺すのか』」

新刊のご紹介。
『誰が農業を殺すのか』が新潮社から販売されている。
著者は、ジャーナリストの窪田 新之助氏、山口 亮子氏のお二人だ。

新潮社のサイトには、このようなキャッチが
『日本の農政は「弱者である農業と農家は保護すべき」という観念に凝り固まっており、産業として独り立ちさせようという発想が全くない。農家の減少は悪いことではない。数が減れば「やる気のある農家」が農地を持つことになって、生産性は上がるのだ。一方で、あまりにも内向きで国際的な趨勢についていけない対応が理由で、米価が中国の先物市場で決まってしまう未来も見えてきた。農業ジャーナリストが返り血覚悟で記した「農政の大罪」。』

章立ては、
1.中韓に略奪されっぱなしの知的財産
2.「農産物輸出5兆円」の幻想
3.農家と農地はこれ以上いらない
4.「過剰な安心」が農業をダメにする
5.日本のコメの値段が中国で決まる日
6.弄ばれる種子
7.農業政策のブーム「園芸振興」の落とし穴
8.「スマート農業」はスマートに進まない

私自身が一番興味を持ったのは「中韓に略奪されっぱなしの知的財産」だ。
日頃、アジアの政治経済を個人的にウォッチしている私には、この問題が非常に大きな経済損失になっていると考えている。

それぞれの内容は、一般向けに書かれているので難しい用語、言い回しもない。政策が作られる過程、いろいろな方の思惑、今後の日本の農業、農政が見えてくる。

農業分野だけではなく、アジア経済や東アジアの政治、さらに私がかつて長らくいたIT、情報通信業界の方にも読んでいただきたいお勧めの一冊である。

(HAL財団 上野貴之)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1247/

2022年12月12日号(通算22-15号)

新しい農業の枠組みを考えるトークセッション 満員御礼

満員御礼!

さきほど案内したトークセッションはおかげ様で満員になりました。
また新しいセミナー、セッションを企画します。


現在、農業界は肥料、飼料のかつてないほどの急激な高騰に見舞われ、そのうえ海外産原材料は輸入不安定という状況に置かれ、先行きが非常に不透明になっています。

その解決策は従来の農業政策だけでは難しく、多くの農業従事者は独自の解決策を探り、新たな枠組みを模索している実態もあります。

一方で、従来から地道に農業分野との連携を視野に企業活動を行ってきた企業、団体が存在しているのも事実です。今回、農業従事者の声にこたえ、その企業との新しい枠組みを考える「トークセッション」を企画しました。

【開催概要】
日時:2023年1月23日(月)
13時半受付
14時開演
14:00~15:00 スピーカーによるフリートーク
15:15~16:45 会場参加者とスピーカーのセッション

(質疑応答)
17:00~18:30 トークセッション 2部
(質疑応答、個別相談)

参加費:無料
会場:かでる2.7 520研修室
住所:札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル

【申し込み方法】
事前メールで受け付け(先着順)
受付期間: 2022年12月10日(土)~12月16日(金)
申し込み先:
HAL財団 トークセッション担当 まで メール:  umai@hal.or.jp
★お名前、メールアドレス、所属(屋号、会社、団体)、ご住所、電話番号を記載の上、お申込みください。先着順です。参加番号(参加チケット)をメールでお送りします。

定員 :農業従事者:40人(MAX)
関連企業・団体:10人(MAX)
スピーカー、運営:20人

スピーカー(話題提供者) (企業、団体名の五十音順)
・アサヒバイオサイクル(株) サステナビリティ事業本部
アグリ事業部長 上籔 寛士氏
マネージャー  北川 隆徳氏

・(株)伊藤総本家 代表取締役   伊藤 敏彦氏 (別海町酪農業)
・合同会社 共和町ぴかいちファーム 代表社員 山本 耕拓氏 (共和町生産者)
・グラントマト(株) 代表取締役社長 南條 浩氏
・バイオシードテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 広瀬 陽一郎氏
・福田農場 農園主 福田 稔氏 (網走市生産者)
・別海バイオガス発電(株)  営業部長  小菅 加奈子氏
・株式会社ペントフォーク 代表取締役社長 伊藤 武範氏
・北海道食産業推進機構(株)  代表取締役  佐藤 敏華津氏
・(株)牧野農園 取締役 牧野 健仁氏 (美唄市生産者)

進行役(仕切り役)
・札幌農業と歩む会会長 三部 英二氏(元札幌市農政部長)
・HAL財団 公益事業部長  上野 貴之

進め方
1 スピーカーからそれぞれの立場で北海道農業とどのように関わってきたのか、また今後の関わりについてお話をしてもらいます。
2 会場参加者から随時質問を受け付け、トークセッションをします。
3 スピーカーと個別の対応を希望する方は、セッション終了後に時間を設けます。

主催 一般財団法人 HAL財団

協賛:バイオシードテクノロジーズ株式会社
北海道食産業推進機構株式会社    (2022年12月1日現在)

【お問合せ先】
一般財団法人 HAL財団
〒060-0061
札幌市中央区南1条西10丁目3 南一条道銀ビル4階
電話 011-233-0131 FAX 011-206-8100
公益事業部 上野

PDF版
チラシ(PDF)はこちらから

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1240/

2022年12月12日号(通算22-14号)

新しい農業の枠組みを考えるトークセッション開催!

現在、農業界は肥料、飼料のかつてないほどの急激な高騰に見舞われ、そのうえ海外産原材料は輸入不安定という状況に置かれ、先行きが非常に不透明になっています。

その解決策は従来の農業政策だけでは難しく、多くの農業従事者は独自の解決策を探り、新たな枠組みを模索している実態もあります。

一方で、従来から地道に農業分野との連携を視野に企業活動を行ってきた企業、団体が存在しているのも事実です。今回、農業従事者の声にこたえ、その企業との新しい枠組みを考える「トークセッション」を企画しました。

【開催概要】
日時:2023年1月23日(月)
13時半受付
14時開演
14:00~15:00 スピーカーによるフリートーク
15:15~16:45 会場参加者とスピーカーのセッション

(質疑応答)
17:00~18:30 トークセッション 2部
(質疑応答、個別相談)

参加費:無料
会場:かでる2.7 520研修室
住所:札幌市中央区北2条西7丁目 道民活動センタービル

【申し込み方法】
事前メールで受け付け(先着順)
受付期間: 2022年12月10日(土)~12月16日(金)
申し込み先:
HAL財団 トークセッション担当 まで メール:  umai@hal.or.jp
★お名前、メールアドレス、所属(屋号、会社、団体)、ご住所、電話番号を記載の上、お申込みください。先着順です。参加番号(参加チケット)をメールでお送りします。

定員 :農業従事者:40人(MAX)
関連企業・団体:10人(MAX)
スピーカー、運営:20人

スピーカー(話題提供者) (企業、団体名の五十音順)
・アサヒバイオサイクル(株) サステナビリティ事業本部
アグリ事業部長 上籔 寛士氏
マネージャー  北川 隆徳氏

・(株)伊藤総本家 代表取締役   伊藤 敏彦氏 (別海町酪農業)
・合同会社 共和町ぴかいちファーム 代表社員 山本 耕拓氏 (共和町生産者)
・グラントマト(株) 代表取締役社長 南條 浩氏
・バイオシードテクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 広瀬 陽一郎氏
・福田農場 農園主 福田 稔氏 (網走市生産者)
・別海バイオガス発電(株)  営業部長  小菅 加奈子氏
・株式会社ペントフォーク 代表取締役社長 伊藤 武範氏
・北海道食産業推進機構(株)  代表取締役  佐藤 敏華津氏
・(株)牧野農園 取締役 牧野 健仁氏 (美唄市生産者)

進行役(仕切り役)
・札幌農業と歩む会会長 三部 英二氏(元札幌市農政部長)
・HAL財団 公益事業部長  上野 貴之

進め方
1 スピーカーからそれぞれの立場で北海道農業とどのように関わってきたのか、また今後の関わりについてお話をしてもらいます。
2 会場参加者から随時質問を受け付け、トークセッションをします。
3 スピーカーと個別の対応を希望する方は、セッション終了後に時間を設けます。

主催 一般財団法人 HAL財団

協賛:バイオシードテクノロジーズ株式会社
北海道食産業推進機構株式会社    (2022年12月1日現在)

【お問合せ先】
一般財団法人 HAL財団
〒060-0061
札幌市中央区南1条西10丁目3 南一条道銀ビル4階
電話 011-233-0131 FAX 011-206-8100
公益事業部 上野

PDF版
チラシ(PDF)はこちらから

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1235/

2022年11月30日号 (通算22-13号)

WEB版HALだより(動画版)制作中

第17回HAL農業賞で北海道農業特別貢献賞を受賞した株式会社町村農場と都市近郊農業賞を受賞したAmbitious Farm株式会社の動画もいよいよ完成間近。

夏から撮影を始め、収穫の秋まで撮影。いよいよナレーションを入れる段階まで来ました。

ナレーションはHAL農業賞アンバサダーでもあるフリーアナウンサーの渡辺陽子さん。

12月上旬には公開予定です。

今しばらくお待ちください。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1204/

2022年11月28日号(通算22-12号)

3年ぶりの開催~2022北国の鉢花まつりが開催されました

 札幌の花き地方卸売市場で11月26日27日の2日間、冬の鉢花を集めた展示即売会が3年ぶりに開催されました。

クリスマスを彩るポインセチア、冬の定番シクラメンなど冬に人気の鉢花の展示即売会はこの時期恒例のイベント。しかし、ここ2年間はコロナ禍の影響で中止されていました。

 久々に開催された鉢花まつりには、9時の開場と同時に多くのお客さんが入場し、とても賑わっていました。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1197/

2022年11月4日号 (通算22-11号)

草野作工(株)のコラムに磯田理事長が寄稿しました

橋梁工事を得意とする草野作工株式会社(本社:江別市)の公式WEBに磯田理事長のショートエッセーが掲載されました。

草野作工(株)は橋づくりで有名な企業ですが、同時に農業土木や河畔林の保全など環境にやさしい企業として知られています。

また、「建設人材育成優良企業」として第1回目の国土交通大臣賞を今年度受賞した会社です。

今回、縁が合って磯田理事長が「大友堀〜大地に刻まれたランドマーク〜」と題してエッセーを寄稿しましたので、ご一読いただければ幸いです。

草野作工株式会社のURLは https://www.kusanosk.co.jp/

伝えたい、残したい。北海道の土木。その風景と歴史は
https://www.kusanosk.co.jp/trivia/huukei/13883 から。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1192/

2022年10月7日号(通算22-10号)

渡辺陽子さんHAL農業賞アンバサダー就任!

WEB版HALだよりの「声」として私たちと多くの仕事をしているフリーアナウンサーの渡辺陽子さん。この度、HAL農業賞アンバサダーに就任いたしました。

渡辺陽子さんは元HBCアナウンサー。HBC時代には情報番組、ニュース番組で活躍し、現在もフリーアナウンサーとして、HBCテレビの「今日ドキッ!」を始めとする数多くの情報番組に出演していますので、皆さんにはお馴染みと思います。

情報番組や多くのナレーションなどの仕事に加え、私たちと一緒にHAL農業賞の仕事、HAL農業賞のPR活動を行っていきます。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1166/

2022年10月04日号 (通算22-09号)

農業経営レポート
“Seek out innovetors”
~『水が無い乾田水田』のインパクトとは?~
を掲載します。

筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中。

最近話題の「乾田稲作」について農業経営の視点からのレポートです。

北海道内でも「乾田」「直播(ちょくはん、ちょくは)」の言葉が一般紙でも見る機会が増えています。
また、肥料などの高騰を受けて新しい農業資材も注目されています。

今回は、経営の観点からの分析です。

なお、北海道での乾田技術を詳しく解説した良書「図説 イネの直まき栽培の手引き」が北海道協同組合通信社から発売されています。

それでは、この先はレポートになります。

レポート:梶山正信

Ⅰ 経営の概況

1.営農場所・労働力構成

(1)今回のテーマである水が無い水田の場所は、岩内郡共和町内にある水田約4ha、メロン約2.5ha、小麦約13ha、カボチャ4.3ha、飼料作物(子実コーン)13ha及びハウス野菜等1.8aを作付けしている「合同会社共和町ぴかいちファーム」。
経営者の山本耕拓・美和子氏ご夫妻+ご両親の4名で家族経営を行っている。

(2)農繁期は、通常3月中旬~10月上旬で、その間はご夫婦2人+ご両親にアルバイト7名の11名で農作業を行っている。なお、現状でのアルバイトの労働の8割は、メロンと米(苗床)の作業になる。


<多くの人が山本耕拓氏からの乾田水田の取組状況説明に集まった>

2.経営の収支等

(1)今年度における作物別の収支割合は、現時点での見込として水田:9.4%、メロン:28.2%、小麦:9.4%、カボチャ:25.3%、飼料作物(子実コーン):7.1%、ハウス野菜等:7.1%に加え補助金という割合になる見通しである。
損益計算書(P/L)から算出したEBITDA(下に解説)は、支出の原材料費、労働費(アルバイトを含む)等の原価から、将来の成長のための投資と考える農業機械等の減価償却費を除いて計算すると、今年度見込収入の45.9%が経営者の山本耕拓・美和子氏ご夫婦での経営力で生み出された結果だと言える。

(解説)EBITDAとは 企業の評価指数の一つで「営業利益+原価償却費」で算定され、企業の収益力を測る指標として活用されています。

(2)次に、作物別に全国平均での労働時間で分析すると乾田水田:251時間、メロン:4,900時間、小麦:520時間、カボチャ:10,750時間、子実コーン:156時間、ハウス野菜等:736時間となり、合計労働時間は17,312時間となる※1。
これは他の作物(品種、面積など)はそのままとし、水稲を従来の田んぼから乾田水田に変えた場合の労働時間の削減率(労働時間が現状の1/3~1/4に削減)から得られた数値である。グラフは以下の表1。
経営全体での労働時間の変化は、従来の水稲(田んぼ)は17,940時間であったものが乾田水田に変えることで3.5%の労働時間の削減になるものと見込まれる。

【表1】

(3)これを、経営者の山本耕拓・美和子氏ご夫妻の意向も踏まえ、現在でも労働時間が少ない子実コーンや自家消費に必要なハウス野菜等は現状のまま維持した上で、他のメロン、小麦、及びカボチャの農地を乾田水田に切り替えたと仮定すると、以下の表2のようになる。
従来の水稲で要していた労働時間6,126時間が、乾田水田に切り替えると3,740時間もの労働時間が削減される可能性がある。
さらにメロン、小麦、及びカボチャの農地を乾田水田にすると労働時間を61.0%も削減できることになる。
現状の労働時間17,312時間が2,386時間になれば経営全体で86.2%もの大幅な労働時間の削減となるのだ。

【表2】

(4)今後の補助金に大きな変化がないと仮定し、メロン、小麦及びカボチャを乾田水田に変えると想定してみる。収入が同等水準だとEBITDAで確認できれば、2,386時間程度の労働時間で今までと同等の収入が得られ、その上、労働生産性の大幅な向上が期待できる。
今後は、この削減できた時間を家庭や子供、自分のための時間として活用することで、今までの農業経営では考えづらい、とても時間と気持ちに余裕がある「経営と生活」が実現できる。まさに、日本の農業界での社会変革(イノベーション)を強く感じている。

(5)生産性指標の比較をEBITDAで行うと、現状の労働時間は合計で17,312時間であり、今年度の時間当たり収入は見込み値で1,706円/時間となるが、メロン、小麦、及びカボチャの農地を乾田水田に切り替えてたとすれば労働時間が2,386時間になることから、時間当たり収入は実に12,362円/時間となり、その生産性指標は7.3倍にも向上することになる。
なお、このことでメロンや苗床の作業のためのアルバイトを雇用する必要もなくなると考えられるので、その分の労働費も削減でき、生産性指標は更に高まると考えられる。

3.農業における水の重要性・困難性

(1)そもそも、基本的に農業には水は不可欠なものである。世界の水の約7割が農業用として使われており、特に日本の歴史そのものである水田は、水と共に存在すると言っても過言ではない。

(2)そのため、水田を中心とした農地の効率化・大規模化のための基盤整備事業において、国は今も多額の補助金を使って整備・造成を行ってきた。これは日本における悲惨とも言える農業における水を巡る人命を掛けた血みどろの戦いの長い歴史があるからだろう。

(3)実際、筆者が現在居住する千葉県の近年での歴史を見ると、今では信じられないようなこともかつてはあったようだ。
(引用)
「千葉の県民気質は陽気で義理人情に熱いが、漁師の気質も混じって血の気が多いなどと言われたりします。水争いも半端ではなく、竹やり、日本刀、時にピストルや猟銃など物騒な武器まで登場します。
明治27年、栗山川(くりやまがわ)の水をめぐって両岸の農民2百数十名が、手に鍬、鋤、竹やり、日本刀、仕込杖などを持ち白装束を着て激突、不幸にも2人の犠牲者を出しています。
また、昭和8年の干ばつでは、ある農民が水利組合長を刀で切りつけたり、農民が大勢押しかけ村長宅から米を強奪したりというような話も残っています。」※2
農林水産省「関東農政局農村振興部HP掲載文引用」

(4)このように、農業においても水を巡って血みどろの戦いが繰り広げられてきた歴史がある。農家は農業基盤整備事業での多額の負担金と共に、地域住民や農家と水を巡ってイヤな思いやトラブルが起きないよう、定期的に共同での農業水路の管理等で、お互いに周りの目を気にするような、周囲からの精神的に強いプレッシャーを受けながら日々の水管理を行っている現実があるとも一部では聞こえる。

(5)この乾田水田で、新技術による全く水を使わない水稲栽培が、これから永続的に可能であるとすれば、この日々の強いプレッシャーからも解放されることが考えられる。農家にとっては、労働時間やコスト削減も大いに助かるが、何よりもこうしたことがとても穏やかな生活に結び付くのだろうと思ってしまう。


<収穫前の乾田の様子。特にひび割れなどはない。2022.09.09撮影>

Ⅱ これからの農業経営が目指すべき方向性

1. 働き方改革と農業経営

(1)周知のように、日本の社会がバブルを含む高度成長期からバブル崩壊による失われた10年が、かれこれ30年にもなる日本経済低迷時代が続いている。が、このコロナによるパンデミック、ロシアによるウクライナへの侵攻が長引く不透明な中、これまでのVUCA時代(注:VUCAとは、Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字からの造語。予測が非常に難しくなる状況を表す)と言われた世界経済は、更に混沌としながら大きな変革期を迎えている。

(2)その一番の要因は、消費者であるニーズの変化である。消費の主要な層が、戦後の2回のベビーブーマー世代→ミレニアム世代→Z世代に移り、大きな外部環境の変化が起きてることに他ならない。

(3)Z世代が重視するのは、地球環境と心理的安全性であり、そのために日本でも旧来の長時間労働ありきの働き方を改め、家族や子供、またリカレントなどの学びに時間を使える様な新しい働き方を求める動きが強くなっている。

(4)勿論、農業においてもそのことは必須であるから、北海道の、特に今の30代、40代の若手・中堅の農業経営者の意識は、
①グローバルに、何よりも顧客が今求めるものを作ること
②それを最短の労働時間やコストで作ること
を何よりも重視してるのではないかと、この現場で強く感じた。

これを「経営」でのミッション、ビジョン、バリューという三大要件とそれを突き通すぶれない軸ということをイメージしたのが、上記の図だ。
北海道の若手・中堅の中核農業者の意識を「経営」で表現すれば、上の全体像で表現できると考えている。
このような経営理念を持った農業経営者が数多居ることを、今回の共和町での乾田水田の取り組みを取材し知った。北海道にはその広大な地域に稲作、畑作を問わず幅広い分野で同じ理念を有する経営者がたくさんいるのだ。そのことが、私にとって一番の驚きであり、大きな喜びであった。

2.ダイバシティ経営とwell-being

(1)グローバル社会においては、LGBTQを差別しない経営、そしてこの日本においても、その意識は企業経営において着実に高まっている。農業においては、多くの分野で「農福連携」のもと、障害者などが農業に積極的に参加することでリハビリテーションや心のケアという農業特有の有用な効果を人の心理的面に与える取り組みが、着実に進んでいる。

(2)勿論、今問題になっているような技能実習生制度のように、一部の心無い経営者による低賃金労働、パワハラ、障害者を安い労賃で働く駒使いのような意識の経営は論外だが、農業においてはこれからもこのような有用な効果をメリットに、他産業よりダイバシティ経営を進め易い産業ではないかとも感じる。


<札幌ミツバチプロジェクトの農福連携の取り組み>

Ⅲ 考察(まとめ)

■これまで、米もそうであるが、多くの日本の果物や野菜が、特に輸出においては手間暇と労働時間やコストをかけて、高級品を高く輸出するという戦略が太宗を占めていた。しかし、それはグローバル資本主義で世界経済が伸びて、そのターゲットなる富裕層が増えていた時代の話である。
■現にウクライナで戦争が起き、コロナの影響が世界で長引く中、既にその時代は終わりを告げている。今はマクロでの地球環境を守り、ミクロでの人としてのダイバシティ経営での働き方、心理的安全性と個人がwell-beingな社会の実現を目指すべき時代に、この日本でも多くの人々の意識が大きく変化していると感じている。
■是非、農業においても、この雄大な農業のキャパシティを持つ北海道から、乾田水田のような今までの常識を覆すチャレンジングな取り組みを知行合一で実現できる山本耕拓・美和子氏ご夫婦のような素晴らしいイノベーターが続々と農業でも生まれることを期待する。それが1次産業の農業の枠だけでなく、工業や商業という2次産業や3次産業にもその枠を超えて、このようなイノベーションが繋がっていくことを、私は願ってやまないのである。

━以上━


<山本ご夫妻にお話を伺う筆者>

本文中の引用、参考文献
※1:農林水産省「稲作の現状とその課題について」、「生産及び統計」、「作物統計」等
※2:農林水産省「関東農政局農村振興部HP掲載文引用」

梶山正信

一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(行政書士)

筆者プロフィール
1961年生まれ
2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1152/

2022年9月29日号 (通算22-08号)

WEB版HALだより(動画版) アンビシャスファーム、町村農場 紹介動画制作中

第17回HAL農業賞で都市近郊農業賞を受賞したAmbitious Farm株式会社と株式会社町村農場の企業活動の様子を撮影中です。

 農家の朝は早い。
 畑作、稲作を行うアンビシャスファームは、毎週土日に江別市内でふたりのマルシェを開くのだから。お客さんが待つ採りたて、もぎたての野菜を収穫し、店頭用に綺麗にする。
 私たち収録チームも早朝からの撮影だ。

アンビシャスファームの皆さん、畑を走るかのような速さで収穫。スタッフ一同、付いていくのがやっとだ。

いわゆる「物撮り」
野菜の魅力が伝わるようにプロのカメラマンが光を見極めながら撮影。

(ふたりのマルシェ)

店頭での撮影。開店前の準備の様子を撮影。
お客さんが来るまでのわずかな時間に野菜を撮影だ。

(スタッフへのインタビュー)
お客さんの合間を探し、店頭スタッフへのインタビュー。

平行して町村農場の撮影も実施している。
歴史ある町村農場。創業者の話など、社長の町村均さんに伺う。
インタビューは、記者経験も豊富なHBCフレックスのYさんだ。

(町村社長へのインタビュー)

牧場内の施設を町村社長に案内していただく。旅番組風にお話を伺いながら。

(牧場内の撮影)
ちょうど、子牛に餌、ミルクを与える時間に撮影。

搾乳の様子も撮影だ。搾乳も朝が早い。

町村農場には直営ショップもあり、開店前に撮影。
どれも美味しそう。

カメラマン!腕の見せ所。

ライティングに苦労するが、無事に終了。
撮影は現在も進行中。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1085/