2023年6月27日号(通算23-11号)
~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(7)
磯田 憲 一
2022年11月15日~16日の日程で喜多方市を訪問し、喜多方市長や教育行政を担う方々と意見交換の時間を持ったことを中村桂子さんに報告しました。すると、次のような励ましの連絡をいただきました。
「素敵な報告をありがとうございます。みなさんが真剣に取り組んでいる様子が目に浮かびます。社会の動きは不安定で未来が危うく感じられる時がありますが、みなさんが、今、進めているような活動が子どもたちの生きる力を育て、未来につながるに違いないと思います。仲間に入れていただきますことを幸せに思っています。美唄の活動が本格化することを願いながら、改訂版のお手伝いをさせていただきます」(2022年11月)
中村桂子さんからの温かなお気持ちをいただき、具体的な形として、改訂版の冒頭に、子どもたちへのメッセージを掲載したいと考え、2023年2月、正式に原稿執筆をお願いしました。
その依頼に快く応えてくださり、2023年2月下旬、子どもたちに向けた優しく、そして深い「知」に裏打ちされたメッセージが届きました。
その言葉は、改訂版の冒頭に、「JT生命誌研究館名誉館長」からのお祝いメッセージとしてではなく、編集チームの一員である証しとして、改訂版編集委員会「特別アドバイザー」の立場で本文の第一章として掲載されることになりました。
前述したように美唄市は、2011年から「農業体験学習」を実施してきましたが、2022年8月の「アルテピアッツァ美唄」での講演会の折、意見交換の場で中村桂子さんから「体験学習はあくまで“体験”の域にとどまるが、週間の授業の“時間割”の中に“農業”として表示されていることがポイント。そのことで子どもたちの心にしっかりと“農業”への思いが刻まれる」との貴重なアドバイスがありました。美唄市は、そのアドバイスに沿って、2023年から「時間割」の中に“農業”と表記することを決めました。そして、その表記も、最終的に「農業科」とすることになりました。
北海道の教育の歴史の中で、小学校の授業に「農業科」が位置付けられるのは初めてのことであり、全国的にみても、福島県喜多方市のみという画期的な取り組みと言えます。
2022年8月20日(土) アルテピアッツァ美唄
中村桂子 アルテで語る
「生きものとしての人間のつながり」
~生命誌からのメッセージ~
(写真提供 美唄市教育委員会)
改訂版自体の表記も、従来の延長であれば「美唄市小学校体験農業副読本」となるはずでしたが、これまで述べてきたような経過を辿り、「美唄市小学校“農業科”…」へと変わり、さらに「農業科」には“教科書”が存在しないことを踏まえ、「副読本」ではなく、「読本」とする決断に至りました。最終的に「美唄市小学校農業科読本」という、新しい世界が切り拓かれることになったのです。
(第8号に続く)