HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2023年6月27日号(通算23-11号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(7)

磯田 憲 一

 2022年11月15日~16日の日程で喜多方市を訪問し、喜多方市長や教育行政を担う方々と意見交換の時間を持ったことを中村桂子さんに報告しました。すると、次のような励ましの連絡をいただきました。
 
「素敵な報告をありがとうございます。みなさんが真剣に取り組んでいる様子が目に浮かびます。社会の動きは不安定で未来が危うく感じられる時がありますが、みなさんが、今、進めているような活動が子どもたちの生きる力を育て、未来につながるに違いないと思います。仲間に入れていただきますことを幸せに思っています。美唄の活動が本格化することを願いながら、改訂版のお手伝いをさせていただきます」(2022年11月)
 

 中村桂子さんからの温かなお気持ちをいただき、具体的な形として、改訂版の冒頭に、子どもたちへのメッセージを掲載したいと考え、2023年2月、正式に原稿執筆をお願いしました。
 その依頼に快く応えてくださり、2023年2月下旬、子どもたちに向けた優しく、そして深い「知」に裏打ちされたメッセージが届きました。
 その言葉は、改訂版の冒頭に、「JT生命誌研究館名誉館長」からのお祝いメッセージとしてではなく、編集チームの一員である証しとして、改訂版編集委員会「特別アドバイザー」の立場で本文の第一章として掲載されることになりました。

 前述したように美唄市は、2011年から「農業体験学習」を実施してきましたが、2022年8月の「アルテピアッツァ美唄」での講演会の折、意見交換の場で中村桂子さんから「体験学習はあくまで“体験”の域にとどまるが、週間の授業の“時間割”の中に“農業”として表示されていることがポイント。そのことで子どもたちの心にしっかりと“農業”への思いが刻まれる」との貴重なアドバイスがありました。美唄市は、そのアドバイスに沿って、2023年から「時間割」の中に“農業”と表記することを決めました。そして、その表記も、最終的に「農業科」とすることになりました。
 北海道の教育の歴史の中で、小学校の授業に「農業科」が位置付けられるのは初めてのことであり、全国的にみても、福島県喜多方市のみという画期的な取り組みと言えます。

2022年8月20日(土) アルテピアッツァ美唄
中村桂子 アルテで語る
「生きものとしての人間のつながり」
~生命誌からのメッセージ~
 (写真提供 美唄市教育委員会)

改訂版自体の表記も、従来の延長であれば「美唄市小学校体験農業副読本」となるはずでしたが、これまで述べてきたような経過を辿り、「美唄市小学校“農業科”…」へと変わり、さらに「農業科」には“教科書”が存在しないことを踏まえ、「副読本」ではなく、「読本」とする決断に至りました。最終的に「美唄市小学校農業科読本」という、新しい世界が切り拓かれることになったのです。

 

(第8号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1387/

2023年6月26日号(通算23-10号)

講演会のお知らせ 中村桂子いのち愛づる生命誌講座(その2)「あなたが生きものであることを学ぶ農業」が開催されます

中村桂子さんは「生きる力を育む学びの原点は農業にある」と考え「小学校には農業が必須」と提唱し、喜多方市や美唄市の小学校の「農業科」創設の指導的役割を担ってきました。

その中村桂子さんの講演会を昨年8月に続く第2回目として開催します。
今回は、第1回目の美唄市に続き第2回講演会を美唄市アルテピアッツァと札幌市で開催し、より多くの方に「農業で学ぶ」を知っていただきたいと考えています。

中村桂子さんが語る“農業の持つ力や子供が農業で学ぶ大切さ、「人間は生きものであり、自然の一部である」”というお話しから、生きることの本質を学ぶ講演会です。
たくさんの方に来ていただきたいので、参加費は無料。美唄会場は週末の夜間。札幌会場は、土曜日の午後にしました。

【日時・場所・定員】
①美唄会場
日 時:7月28日(金)18時00分~19時30分 (開場17時30分)
場 所:安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄 アートスペース
参加費:無料
定 員:150名(申込制・先着順)
申し込み方法:
このQRコードを読み取り、お申込みフォームから申し込むか、

☎0126-63-3137  安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄にお申し込みください。
(平日10時~17時まで)

②札幌会場
日 時:7月29日(土)13時30分~15時30分 (開場13時00分)
場 所:JRタワーホテル日航札幌 36階 スカイバンケットルーム「たいよう」
(札幌市中央区北5条西2丁目5番地)
参加費:無料
定 員:200名(申込制・先着順)
申し込み方法:
このQRコードを読み取り、お申込みフォームから申し込むか、

☎ 090-8901-6631  (株)ノヴェロにお申し込みください。
(平日10時~17時まで)

【講師】

中村 桂子
美唄市小学校農業科読本編集委員会特別アドバイザー
JT生命誌研究館名誉館長 理学博士、生命誌研究者

【主催】
美唄市、美唄市教育委員会、(一財)HAL財団、(NPO)アルテピアッツァびばい

【特別協力】
(公財)北海道文化財団、(公財)秋山記念生命科学振興財団、美唄市PTA連合会

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1408/

2023年6月20日号(通算23-9号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(6)

磯田 憲 一

2022年11月15日~16日の日程で喜多方市を訪問したのは、美唄市から板東知文市長、村上学務課長など4名、HAL財団からは田尻忠三常務理事と私の、合わせて6名でした。喜多方市では、遠藤忠一市長、大場教育長、中野学校教育課長補佐(指導主事)が対応してくださいました。

(写真提供:美唄市教育委員会)

 喜多方市教育委員会から説明のあった事柄は、概ね次のようなものです。

  • 2006年からスタートした喜多方市内小学校における「農業科」は、特区制度廃止後も総合学習の一環として継続している。
  • 福島県内もの含め「農業科」の取り組みは広がっていないが、授業としての「農業科」教育の効果は、計り知れないほど大きなものがあると考えており、喜多方市としては、これからも継続していく方針は堅持していく。
  • 「農業科」は、市内17小学校で実施している。ほ場の確保などの課題はあるが、農業者の協力をもらいながら継続している。

(写真提供:美唄市教育委員会)

  • 喜多方市の副読本は、制作から相当の時間が経過しているが、今のところ改訂版づくりは、予算上の制約もあり予定していない。
  • 今回、美唄市、HAL財団の訪問をいただき感謝している。今後、両市の子どもたちの交流などができると良いと思っている。
  • HAL財団が進めている「大地の侍」の上映セミナーには(会津藩としても)大変興味がある。喜多方市でも上映の機会があると良い。

 喜多方市の、以上のようなお話に対して、HAL財団からは次のような事柄を伝えました。

  • 県内外への広がりはないとしても、農業科教育の意味、価値への深い思いをお聞かせいただき、嬉しく心強く思う。
  • 喜多方市内外への情報発信や政策効果のアピールに苦労されているとのことだが、こうして遠く北海道から板東美唄市長らが訪問したのは、喜多方市への深い敬意を込めてのこと。喜多方市の先駆性に対する美唄市長らの思いと来訪の意味を、喜多方市の情報発信の中で活用していただいて良いのではないか。
  • 美唄市も来年度からのスタートを目ざして、さまざまな手配を整えつつある。両市の「農業」への敬意を込めた先駆的な取り組みを、日本各地に広めていくために、両市の連携をお願いしたい。
  • 生命科学のレジェンドと言われる中村桂子さんは、喜多方市に“頼まれもしない”のに、喜多方市の先駆的取り組みを熱く語り、農業に学ぶ喜多方の子どもたちの「生きる力」に溢れた言葉や発言を紹介されている。喜多方市も、市政を担う皆さんが異動で交代し、近年中村桂子さんとの直接的接点はないかもしれないが、中村さんの次代を見据えた深い知見に学ぶことが大切だと感じる。改めて中村さんのお力をいただき、中村さんが語り続けている「知の世界」を、喜多方市の力として活かすべきではないかと思う。

 美唄市とHAL財団が思いを共有することで実現した喜多方市訪問。これからの方向性を考える上で、とても貴重な学びの旅になりました。とりわけ、全国1800に及ぶ自治体の中の唯一“農業で学ぶ”ことに深い意味と価値を認め、これからも「農業科」教育を揺るぎなく進めていこうとしている喜多方市の方針を確認できたことはとても意義深いことでした。

(注:肩書は当時のもの)

 (第7号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1380/

2023年6月13日号(通算23-8号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(5)

磯田 憲 一

中村桂子さんの助言を受け、喜多方市がスタートさせた「農業科」教育。その反響は大きく、全国各地から教育関係者などが多数視察に訪れたといいます。そして誰もがその取り組みの素晴らしさを称賛し「私たちも是非取り組みたい」と言いながら帰って行かれる状況だったそうです。

が、しかし、視察者の誰もが取り組みの意義を理解しつつも、喜多方市に続く自治体が一つもなかったことを、中村桂子さんは「とても残念なことだった」と述懐されています。

そうした状況下にあった中、板東市長との不思議な会話の展開によって、(1)美唄市が喜多方市に学び、2011年「小学校農業体験副読本」を制作していたこと、(2)制作後11年が経過し、現在、副読本の改訂版づくりが進められていること、を私自身が初めて知ることとなりました。そうした事実と状況を中村桂子さんにお伝えしたのは、昨年(2022年)7月のことです。

その報告に中村さんは大変驚かれ、「喜多方市以外に副読本を作っていた自治体があることなど、この10年全く知らなかったし、想像もしていなかった。とても嬉しい知らせで、美唄市が進めている改訂版づくりに何らかの形でお手伝いさせていただければ…」との思いが寄せられました。高名な中村桂子さんからの申し出に、むしろこちらが恐縮し驚かされることになりました。

中村さんから申し出をいただいたことを機に、農業や農村文化などの在りように広く関わるHAL財団として、中村桂子さんと改訂版作業を進める美唄市、美唄市教育委員会との間を結ぶ役割を果たすことは「北海道農業に新しい春(HAL)の息吹を‥」というHAL財団の思いに叶うことであると考えました。その思いに沿う取り組みの一歩として、構造改革特区の認可を受けて小学校における「農業科」教育の扉を、日本で初めて開いた福島県喜多方市の「今」を把握することが大切であり、必要であると考え、喜多方市訪問を美唄市に呼びかけました。そして、昨年(2022年)11月、津軽海峡を越え、遥かなる福島県喜多方市を訪ねることになったのです。

(第6号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1374/

2023年6月6日号(通算23-7号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(4)

磯田 憲 一

 中村桂子さんは、「人間は生きものであり、自然の一部」という事実を基本に、生命論的世界観を持つ知として「生命誌」を構想し、1993年「JT生命誌研究館」を創設しました。

 私が「中村桂子」さんを知る契機となったのは、2006年から18年間にわたり取り組んできた「君の椅子プロジェクト」がつなぐ縁でした。

 出会いは、2011年3月に発生した「東日本大震災」の際、震災当日に被災3県で誕生した98人の「新しい生命」に、「生まれてくれてありがとう」の思いを込めて「希望の君の椅子」を贈呈したことに遡ります。98の「新しい生命」が産声を上げた時の状況や思いを綴った手記「3・11に生まれた君へ」(北海道新聞社など4社共同)を出版した際、毎日新聞紙上でその書評を書いてくださったのが中村桂子さんなのでした。

 生命科学者である中村桂子さんは、かつて、経済界の指導的人物が、「小さな頃から経済社会の動きを学ばせることが必要だ」として、そのための「情報技術教育は、できるだけ早く、小学校低学年から行うべき」との論陣を張ったことに対し、日本経済新聞紙上で、「子どもたちは、“株”を勉強するより、大地に育つ“カブ”から学ぶことの方が大切」と反論しました。中村さんのその至言に共感・共鳴した当時の白井英男喜多方市長が、中村さんの思いの具体化として、小学校に「農業科」を組み入れることを決断、2006年に実現したのです。

 12年前、美唄市教育長であった現美唄市長の板東知文さんが、喜多方市のその先駆性に学び、「美唄市農業体験副読本」を制作したのは前述したとおりです。

 そうした10数年前の経緯がある中で、私が「アルテピアッツァ美唄30年を機に、中村桂子さんを招くことにした」と板東市長に伝えると、板東市長は大変驚いた様子で、「磯田さんは、どうして中村桂子さんのような“ビッグ”を知っていたのですが?」と質問されました。私は、むしろその問いに驚き、「板東さんこそ、何故中村桂子さんを知っているのですか?」と逆質問したのです。そのやり取りが端緒となり、その時点では想像することもなかった「美唄市小学校“農業科”教育」の仕組みづくりがスタートすることになるのです。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1367/

2023年5月30日号(通算23-6号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(3)

磯田 憲 一

 中村桂子さんの記念講演の開催が、思いもかけない新たな道を切り拓くことになるのですが、その道のりの経過を報告する前に、「アルテピアッツァ美唄」30年を機に、思い新たに「次なるステップへ」向かう“キックオフセミナー”をなぜ開催することになったのかについて、少々敷衍(ふえん)しておきたいと思います。

「アルテピアッツァ美唄」は、旧美唄市立栄小学校の閉校跡を活用して1992年に創設されました。その創設前から閉校跡には「美唄市立栄幼稚園が開設されていて、「アルテ」がスタートした後は、芸術空間全体を園庭とする幼稚園として、多くの訪問者がその存在に驚き、類例のない幼稚園として憧憬される存在でした。しかし、残念ながら2020年3月、64年に及ぶ歴史に幕を下ろすことになりました。

「閉園」を決めた当時の市長や市議会が、どのような政策的意図でそう判断したのかは定かではありませんが、もしかすると、栄幼稚園の存在は、たまたま芸術空間の一角に開設されている一幼稚園、という認識にとどまっていたのかもしれません。そうだとしたら、栄幼稚園と園児たちの存在が、この空間全体にかけがえのない価値を付加してきたことを見逃していたということになります。

「灯台下暗し」は、誰もが陥りがちなことですが、地域の「本物の力」は、「ローカル」を見つめ、「ローカル」を深く掘ることで生まれてくるものです。この「アルテピアッツァ美唄」は、全国にある芸術施設の一つというだけでなく、繁栄と衰退の歴史を染み込ませてきた土地の記憶、時代に翻弄された人々の歓びや哀しみの集積、そして「アルテ」を居場所とする子どもたちの日常の風景としての存在…、それらがさまざまに織りなし相まって“場の力”を生み出し、多くの人たちの心に確かな位置を占めてきたのです。その「場の力」を生み出す上で比類なき役割を担ってきた子どもたちの「居場所」を失ったままでいいのか…。それが、「アルテ」の「次なる30年」を見据えた時の強い課題意識でした。

そうした中で、美唄市は、幼稚園閉園後のこの場の利活用を考える検討委員会(委員長・羽深久夫札幌市立大学名誉教授)を、2020年9月に設置しました。検討委員会は、その後一年半に及ぶ検討を経て2022年3月、美唄市長に「提言書」を提出しました。その柱は、閉園後の空間を利活用し、再びこの場に「多様な幼児教育“機能”」を再生していくことが、市民の誇りを高めていく確かな道のりであるという確信に満ちた提言でした。

その趣旨を受け止め、「アルテピアッツァ美唄」を管理運営する「認定NPO法人アルテピアッツァびばい」は、次なる30年を見据え、この空間を「居場所」とする子どもたちの歓声が、アルテの丘にこだまする風景をもう一度取り戻していきたいと考えています。そうした取り組みを進めていくことが、社会的課題に向き合う公共空間としての役割であることを深く認識し、思い新たに「次なるステップへ」歩みを進めていくこととし、その大いなる回生への記念セミナーとして、生命科学の「知」の世界を拓いてこられた中村桂子さんの講演を企画開催することにしたのです。

(第4号に続く)

 

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1358/

2023年5月23日号(通算23-5号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(2)

磯 田 憲 一

 

現在の教育の場における子どもたちと農業との向き合い方をみると、北海道はもとより、全国的にも小学校では「農業体験」という形で広く、一般的に行われています。しかし、農業体験はあくまで“体験”の域にとどまるものです。成長期の基礎的な学びの重要性を踏まえると、「農業で学ぶ」取り組みを日常的な学習プログラムの中に組み込むことは、計り知れないほどの大きな意味を持っていると言えるでしょう。

(一般的な教科書)

(一般的な教科書)

現在、小学校の時間割の中に「農業科」を組み入れ、授業の中に位置付けている自治体は、2006年(平成18年)、内閣府から構造改革特区(教育特区)の認定を受けて「農業科」をスタートさせた福島県喜多方市のみです。構造改革特区認定は、その後全国展開に向けた対応のため、2008年(平成20年)に廃止され、喜多方市の「農業科」は、2009年(平成21年)から「総合的な学習の時間」の中で実施されています。

北海道美唄市は、その喜多方市の取り組みに学び、喜多方市教育委員会から指導主事を招くなどの学習を重ね、2010年(平成22年)に「美唄市農業体験副読本)を制作。2011年(平成23年)から「グリーンルネッサンス推進事業」として小学校における「農業体験学習」を実施してきました。

農業体験学習は、北海道でも広く一般的に行われていますが、農業体験の副読本を制作したのは、北海道の自治体としては美唄市が唯一であり、日本全体としても、農業に関わる副読本を持っている自治体は、喜多方市と美唄市のみと思われます。

(写真提供 美唄市教育委員会)

(写真提供 美唄市教育委員会)

美唄市は、北海道の中西部に位置し、かつて日本の石炭産業を支えた炭鉱都市の一つです。その炭住街にあった市立小学校の跡地に、1992年(平成4年)、美唄市が開設したのが芸術文化交流施設「アルテピアッツァ美唄」。「アルテ」は、地域の歴史や風土と彫刻が混じり合った公共空間ですが、開設から30年を迎えた2022年、管理運営を担っている認定NPO法人アルテピアッツァびばいは、美唄市との共同主催で、この唯一無二の美しい佇まいを持つ公共空間を美唄のアイデンティティ発信の場として活用していくことを目ざし、思い新たに「次なるステップへ」向かうためのキックオフセミナーを企画しました。

そのセミナーの記念講演をお願いしたのは、JT生命誌研究館(大阪府高槻市)名誉館長の中村桂子さんです。長く生命科学の世界を探求してきた中村桂子さんを「アルテピアッツァ美唄」のアートスペースにお迎えし、2022年8月、「生きものとしての人間のつながり」と題した講演会を開催しました。

後日、不思議な縁の繋がりを実感することになるのですが、この講演企画でお招きした中村桂子さんとの出会いが、農業をめぐる新たな物語の扉を開くことになったのです。

(第3号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1352/

2023年5月16日号(通算23-4号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦 (1)

磯 田 憲 一

 

国土の22%を占める広大な大地に多彩な農業が展開され、日本の食糧基地としての役割を担う北海道。その北海道にとって、将来においても農業が名実ともに「基幹産業」であり続けるためには、算出高の大きさを拠り所とするだけでなく、農業・農村の担う役割や秘めている価値に対する北海道に暮らす人々の共感と敬愛の輪を育み、農業・農村の営みを支える“すそ野”を広げていくことが大切です。そのことが、産業としての力量はもとより、豊かな暮らしを支える基軸としての総合力を高めていくことにつながると言えるでしょう。

 

農業が内にもつ“生命産業”としての意味を踏まえた時、私たちがこの北海道に育ち暮らす上での原点として、農業が育む多様な生命の営みに学ぶ機会を、この北の大地に広げていくことが、人と暮らしの在りようを考える上では勿論、地球規模で広がっている今日的課題に向き合うためにも大きな意味を持つと考えます。「農業」が秘める深くて大きな使命の一つでもあると言っていいでしょう。

その意味で、“北海道の未来”そのものである「子どもたち」に、広く“農業で学ぶ”場を用意することは、子どもたちの「生きる力」を育むことは勿論のこと、多様な生命に対する敬愛の思いや「生きもの」の一つとしての謙虚さを内なるものとしていくための、次代を見据えた大切な方向性といえます。

そうした視点に立つ時、農業を基幹産業と標榜している北海道にとって、現在、美唄市、美唄市教育委員会が2023年度スタートを目ざして準備を進めている小学校教育に「農業科」を組み入れる挑戦は、前例のない先駆的取り組みであり、画期的な仕組みと言えるものです。

私たちHAL財団は、農業・農村が秘める価値への共感や敬愛の輪を広げていくことが「持続可能な農業」を支え、ひいては、この大地を世界に稀なる”暮らしの王国”へと導くことになるとの視点に立ち、2022年4月、次なるステップに向けて新たなスタートを切りました。今、美唄市、美唄市教育委員会が、多くの障壁を乗り越え他に先駆けて取り組んでいる、小学校での“農業で学ぶ教育を支援することは、私たちが目ざす方向性に合致するものであり、HAL財団のスリムさと自律性を活かし、その輪を各地域につないでいく役割を果たしていきたいと考えています。

北海道には先例なく、全国的にも僅か一例しかない、この新基軸の取り組みが実現するまでの経過を、取り組みを支援するHAL財団の思いも含めて、数回に分けて報告することとします。

 

(第2号に続く)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1337/

2023年5月15日号(通算23-03号)

WEB版HALだより「4年ぶりの完全開催「岩農グリーンフェア」」

2023年5月13日(土)に岩見沢農業高等学校で「岩農グリーンフェア2023」が開催された。ここ数年はコロナ禍の影響で会場や入場を制限するなど部分的開催であったが、4年ぶりの開催。つまり、今の3年生は従来のグリーンフェアを経験していない、まさにリスタートのグリーンフェアだ。午前8時の開門時には、すでに岩見沢市内をはじめ近郊から来た市民で各コーナーには行列ができており、地域の方に「岩農グリーンフェア」と親しまれていることが実感できる。

(開始前から行列)

午前9時に野村博之校長の挨拶、生徒代表の開会の声でフェアはスタート。野菜苗、花苗、原木シイタケ、宿根草や腐葉土、プランター、野菜、鶏卵、加工食品などそれぞれの売り場はまさに長蛇の列。

(野村博之校長の挨拶)

(試食用の加工食品)

(野菜苗コーナーも大人気)
 

 各コーナーでは、混雑を防止するために入場制限。そして、入場すると生徒が付き添いで一緒に買い物をする方法であった。
 花の特徴や苗や品種の特徴などを説明してくれる。

 私も花苗や野菜苗を購入したが、一緒に買い物をしてくれたのは奈井江町から通う2年生。ご自宅では水田とトマト栽培を行っているそうで、トマト苗の説明には力がこもる。
 各コーナーを歩くと、それぞれ自慢の品を紹介される。説明が上手なのでついつい購入してしまった。こういう経験はきっと役に立つと感じた。それにしても、みんな笑顔で感じが良い。

 多くの地域住民で賑わい、それを取材する学校新聞局の生徒の姿。インタビューも様になっていた。こういう実践的な教育が行われていることは大事なことだ。
 午前9時から正午までの3時間という短い時間であったが、多くの市民で賑わい生徒も貴重な体験をしたと思う。

 岩見沢農業高等学校の「岩農ショップ」は、定期的に開催され加工食品などを販売している。詳細は、岩見沢農業高等学校のWEBページを。

URL:http://www.iwamizawanougyou.hokkaido-c.ed.jp/

 なお、6月25日(土)~7月3日(日)札幌で開催される「花フェスタ札幌2023」では、北海道農業高校生ガーデニングコンテスト作品紹介コーナーもある。
 北海道内の農業高校。頑張ってます!

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1328/

2023年4月26日号(通算23-2号)

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この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1314/