HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2023年10月24日号(通算23-22号)

もち米の里ふうれん特産館、ノースプレインファーム、滝上町を訪問しました。

2023年10月17日からHAL財団理事長、常務理事が名寄市風連の「もち米の里ふうれん特産館」、興部町の「ノースプレインファーム」、そして滝上町を訪問しました。

「もち米の里ふうれん特産館」も「ノースプレインファーム」も第1回HAL農業賞を受賞した企業。HAL財団とは長いお付き合いになります。
堀江社長、大黒社長と久しぶりにお会いし、今現在も新しい挑戦していることを伺い、話が弾みました。

また、10月18日に訪問した滝上町では、清原町長、井上副町長、さらに奥田教育長など町幹部のみなさんにHAL財団が進めている事業の説明をし、今後も情報交換や具体的な事業を行う方向性を確認できました。

 (HAL財団 上野 貴之)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1533/

2023年10月10日号(通算23-21号)

アンビシャスファーム×どんぐり
収穫体験とパンづくり

2023年9月3日、江別市のアンビシャスファームで行われた、パン屋のどんぐりとアンビシャスファームのコラボイベントに参加してきました。
今年で3回目のアンビシャスファームの収穫体験×どんぐりのカレーパン作り。昨年も参加して、非常に楽しい、そして美味しいイベントでしたので、今年もワクワクしながら江別まで向かいました。

参加するみなさんで自己紹介をしたら、早速、野菜の収穫に畑へ。とても気持ちのいい空です。

まずは、トウモロコシ。自分たちでもいで、そのままガブリ。採れたてのトウモロコシは、みずみずしくジューシーで、甘い!是非とも、もぎたてガブリを味わってもらいたいです。

次は、ニンジンとジャガイモ掘りへ。カラフルなニンジンやルビーレッドなどを掘り起こすのが楽しく、一心不乱に掘り起こします。

そして、今度はどんぐりのカレーパン作りです。既に、パン生地も中のタネも、どんぐりさんで作って

いただいているので、パン生地を自分たちで延ばし、タネを入れて包むだけ!しかし、この包むという作業もなかなかに大変なのです。いつも美味しくいただいているカレーパンが、いかに手間がかかっているのかを実感します。

カレーパンの他にも、パテとアンビシャスファームの野菜をお好みで挟んでつくるハンバーガーや、採れたてジャガイモで揚げるポテトフライなど、盛りだくさんです。

アンビシャスファームの採れたてお野菜は、毎年5月~10月の週末に行われる、ふたりのマルシェで買うことができます。毎週土曜日は、江別のお花屋さんモンシュシュ前で、毎週日曜日は、どんぐり大麻店前で開催されています。ぜひ、採れたてお野菜を目でも舌でも楽しんでください。

※土曜日のマルシェは、朝9時から12時まで。日曜日のマルシェは、朝9時から13時まで。お休みの日もありますので、最新情報はチェックしてください。

※前日午前中までに連絡すれば、野菜セットのほか希望の野菜のお取り置きもしてくれます。

アンビシャスファーム  https://ambitious-farm.co.jp/

ふたりのマルシェ     https://futarino-marche.jp/

 (HAL財団 山 京)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1511/

2023年10月3日号(通算23-20号)

エア・ウォーター「ふるさと応援H(英知)プログラム」 記者会見に磯田理事長が出席

エア・ウォーター北海道株式会社は、道内179市町村を対象とする寄付支援制度「ふるさとH(英知)プログラム」を創設しました。この事業にはHAL財団理事長磯田憲一がアドバイザーの形で参加しており、9月29日(金)に北海道庁2階官民交流サロン コネクト(CONNECT)で開かれたプレスリリース記者会見に同席しました。

 なお、記者会見の該当部分はHAL財団公式Youtubeで公開しております。
  (HAL財団 上野 貴之)

Youtube: https://youtu.be/wk34cCT2c8A

ふるさと応援Hプログラム専用サイトは、こちら⇒ https://airwater-hprogram.jp/

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1505/

2023年9月5日号(通算23-18号)

さとらんど「丘珠まるしぇ」に行ってみた

 札幌市東区にある「サッポロさとらんど」にて、2023年8月26日(土)~9月30日(土)の毎週土曜日に、新しい体験型ファーマーズマーケット「丘珠まるしぇ~Sapporo Farmers Market POROKET~」が開催されることとなり、体験ツアーにお誘いいただいたので参加してきました。

 「丘珠まるしぇ」では採れたて野菜を購入し、その場で自ら調理して新鮮なまま食べることができる「BBQコーナー」と、一流シェフが調理した朝採れ野菜を楽しめる「シェフコーナー」が体験できます。

 「BBQコーナー」は、園内の「さとらんど交流館」前に設置。プレートや串などのBBQセットを購入したら、まずは、農家さんの野菜を選びます。いくつかの農家さんがお店を出しており、夏野菜がずらりと並び、目移りしてしまいます。今回は、とうもろこし、トマト、ズッキーニ、ナス、玉ねぎを購入しました。なお、「さとらんど交流館」内で、お肉を購入して焼くことも可能です。

採れたての野菜を焼いて、その場で食べると、素材そのものの美味しさを感じることができ、調味料などなくても、美味しくいただけました。普段、あまり野菜を食べない小学生の息子も「玉ねぎが甘い!」とそのまま食べ尽くしていました。

 次に、「シェフコーナー」は、「さとらんどセンター」2階テラスにて体験できます。ポプラ並木や小川が流れる広大な風景とともに、一流シェフのブランチを楽しむことができます。

 「シェフコーナー」では、毎回異なるシェフが腕をふるって、朝採れ野菜を中心に様々な食を提供してくれます。休日のブランチに、足を伸ばしたくなりました。

 札幌中心部から車で30分で行ける「さとらんど」は、大都市にいながら自然との調和を楽しめる場所となっています。畑がある広大な敷地で、生産者とのふれあいも楽しみながら、採れたての農産物を色々な形で楽しむことができる新しいファーマーズマーケット。

 

今後は、地元の方々はもちろんのこと、丘珠空港に近いアクセスも生かして、飛行機が到着してそのまま「さとらんど」で観光客にモーニングを楽しんでもらう、そんな楽しみ方も期待されています。9月末までの毎週土曜日に開催される「丘珠まるしぇ」、一度体験してみてください!

※「BBQコーナー」は、9月末までの毎週土曜日、10:00~14:00開催、1セット1,000円(税込)です。予約は不要で、当日受付。
※「シェフコーナー」は、9/9、9/16、9/30の10:00~11:30開催。お1人様3,000円(税込)です。事前予約制となっており、前日16時までに申し込みが必要。

(HAL財団 山 京)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1486/

2023年8月22日号(通算23-17号)

農業経営レポート

“Seek out innovators”
~Part2:『水が無い水田』の取組みの拡大版~~
を掲載します。

筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中。

昨年に続き「乾田稲作」について農業経営の視点からのレポートです。

それでは、この先はレポートになります。

なお、この文章は、筆者個人の見解であり当財団の公式見解ではありません。


“Seek out innovators”Ⅱ~Part2:『水が無い水田』の取組みの拡大版~

レポート:梶山正信

Ⅰ 経営の概況

1.営農の転換状況

(1)2022年5月からテーマとしている「水の無い田んぼ」の取材先は、北海道岩内郡共和町の合同会社共和町ぴかいちファームである。営農の割合は、令和4年度実績で水田(約4ha)、メロン(約2.5ha)、小麦(約13ha)、カボチャ(約4.3ha)、子実コーン(約13ha)、花苗(40a)であった。

この規模の農地を経営者の山本耕拓(やまもと たかひろ)さん、美和子さんご夫妻とご両親の4名で家族経営を行っている。

(2)昨年度(令和4年度)は、約4haのうち1/10にあたる40aを「水が無い水田」として初チャレンジしたが、今年度(令和5年度)は水田を5haに拡大し、その全面積を一気に「水が無い水田」に切り替えた。これから将来に向けて経営計画の転換を本格的に始める初年度である。

「合同会社共和町ぴかいちファーム」経営者の山本氏
2.経営の収益等

(1)2022年度(令和4年度)の作物別収益を、貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を基に算定した。その結果は、水田:約400万円、メロン:約1,700万円、小麦:約300万円、カボチャ:約500万円、子実コーン:約400万円、ハウス野菜等:約300万円、農業助成金:約1,000万円である。

損益計算書(P/L)を使い、原材料費、アルバイトを含む家族労働費等の原価及び農業機械等の減価償却費を含めて計算すると、経費の合計が約4,500万円程度になる。従って、現状の経営においては収益はほぼプラスマイナスゼロに近い状況である。ここから各種助成金や経営者給与等をすべて差し引くと税引き前収益はマイナス1,400万円になる。(収益率で表すとマイナス38.3%となる。)

合同会社共和町ぴかいちファームの事業報告書による数値だけを見ていては、現実の詳細な事業実態が見えてこないため、ここでは一旦、各種助成金や経営者給与等を除いて作物別収益額をグラフ化してみた。(表1)

表1

経営者の山本氏は、このような実態を踏まえ将来に向けた経営計画の転換を図るという目標を持っている。将来の経営者給与の抜本的なアップを伴う「合同会社共和町ぴかいちファーム」の企業価値を上げるためにも、来年度以降、新たな設備投資を行うという。今年度はそのために今までの水田を一気に水無し水田に全面的に切り替えすることを決断したのだ。

(2)この決断に至った経緯を伺うと、(その発端は)現状の経営では経営者の報酬(給与)を一般的なサラリーマンと同じ水準にしていることが起因であった。今後、企業価値を上げることを考えると、現在の稲作、畑作の混合経営を穀類中心にシフトすることが必要である。そのためには、穀類のための乾燥調製施設を数年計画で新設をするとともに、その面積の抜本的拡大を目指す方向に経営転換を図りたいとの意向であった。

このことから、私としては農業でも経営者給与が最低限でも2,000万円を 十分に確保出来る、そして利益剰余金を着実に積み増して、企業価値を上げて将来のバイアウトにも備えらえる経営を目指すべきだとの認識を経営者の山本氏と共有した。

そのため、昨年度に引き続きその※1全国平均でのデータを使いながら、当初の穀類緒製施設の減価償却が終了する予定の令和20年度には、水田、春小麦、子実コーンを合計で100ha程度(各1/3ずつ)に面積拡大(メロンとカボチャからの完全撤退)し、経営を穀類に集中し終えるのが目標である。それが達成されるとして、令和20年度における作物別に労働時間の削減率の見込み(水田の労働時間が現状の1/3~1/4に、春小麦及び子実コーンは1/2に削減される)を算入して収入と経費の分析をしてみると、水田約3,400万円、小麦約800万円、子実コーン約1,000万円を事業収入の基本とし、自家消費のためのハウス野菜等約300万円(現状と同じ)、農業助成金約300万円(現状の約1000万円から減少)になるとの厳しめの認識を意識しながらも、15年後には単年度でも合計で約5,900万円程度の事業収入になるのではないかとの予測財務諸表が作成できた。(なお、これを表1と同様に収益率にすると30.8%となるので、現状とのその差は69.2%にもなる。)

現状の表1と比較をするために、同様に将来予測の農業助成金や経営者給与の影響だけを除いた作物別収益額をグラフにすると、以下の表2のようになる。

表2

(3)表2は、P/Lでの支出の原材料費、家族労働費(アルバイトを含む)等の原価及び今の農業機械等の減価償却費の水準を維持しての計算である。経費は合計で約1,800万円程度に大幅に圧縮されることから、経営者給与の15年後での目標額を2,000万円とすれば、税引き前収益は合計で2,000万円を超える額となる。このことから、令和20年度までにこの経営改善を着実に続けていけば、累計での「合同会社共和町ぴかいちファーム」の税引き前収益は1億4千万円に達すると試算できる。

この収益での企業価値、またこの経営者給与のレベルであれば、現状は余り聞かないが、農業でのバイアウトも現実味を帯びてくるものと思慮される。

(4)このデータを、山本耕拓・美和子氏ご夫婦に確認して頂き、現在計画している穀類乾燥調製施設の投資額合計約5,000万円程度を来年度から、3回に分けて順次投資するとの意向も踏まえ再計算しても、15年後には投資した減価償却がほぼ終了していることから、前述の税引き前の収益は大きくは変わらないと計算された。

(5)勿論、これは日本の現実の税務会計を無視しているので、法人での10年間の欠損金繰越期間や本来の税引き前の収益額に対する実質税率等を加味しなければならない。しかし、国の税制は原則毎年見直されるものであり、税率を含めて現状の税制がどのようになるかは誰にも分からないことであるため、それらを考えると、実態の会計上の純利益としての「合同会社共和町ぴかいちファーム」の最終の経営全体での収益及び利益剰余金の正確な予測は出来ないが、これだけ累計での税引き前の収益が計算される経営であれば、これからの経営の転換を図る方向性に間違いはないと考えられる。

3.水無し水田における「Jクレジット」の影響について

(1)そもそも、この水無し水田にすることで、従来の水稲栽培では6万円/haだった収益が、75万円/haと約13.0倍にも向上することとなり、同様に春小麦も3.3倍、子実コーンも1.6倍に向上することとなる。

ここでは2050年を目標としたカーボンニュートラルにおける、水田での温室効果ガスであるメタンの発生抑制の方策として、この水無し水田でのメタンのJクレジットでの削減効果額だけを考察する。現在の平均的な取引額である76,667円/haとして計算すると、令和20年度時点の目標水田面積が約33.3haであることから、「合同会社共和町ぴかいちファーム」でのJクレジットでの削減効果額は約256 万円となる。水無し水田の収益が2,497万円から2,752万円に向上することから、水無し水田に対するその影響度は9.3%になると考えられる。(なお、このことでの収益率の変化は、目標値の30.8%から更に向上し、35.1%になるので現状との収益率の差は、69.2%から73.4%に広がる。)

勿論、このことは一経営体が取組むべき課題ではなく、農業分野の取組として日本全体で取組むべきことである。因みに共和町の今の水田面積が1,539haなので1.2億円、北海道全体では水田面積は93,600haであるから71.8億円、日本全体であれば1,355,000haなので、約1,039億円のJクレジットでの温室効果ガスの削減効果額が計算される。

(2)実際の法人等の単体の水田経営でも、その収益額を短期間に1割近く向上させることは至難の業である。勿論、一経営体だけでも水稲で水無し水田に取組むことは経営上非常に有効な選択肢だと考えられるが、そもそも2050年でのカーボンニュートラルの目標を達成するためには、広大な面積の北海道全体で、そして日本全体でこれから水無し水田に取組むことが、農業分野における大きな温室効果ガスの削減効果につながると考えられる。

(3)この写真は、播種機でのドリル播種から約1ヶ月程度経過した水無し水田の写真である。水が全くなくても順調に種子から発芽して5~10㎝程に稲が生育しており、水田では非常に厄介な雑草の発生も適切な除草剤の使用で、ほぼ完ぺきに抑制されていることから、作業時間がこれまでの水田より大幅に削減出来ることは確実だと経営者の山本氏からあった。

播種後の現在の水無し水田の様子。雑草などの発生が殆どない。2023.05.29撮影

(4)また、水田での現実的な問題として、近年、全国的に急速に農業の高齢化による離農が進んでいることがあげられる。その水田自体は付近の規模拡大する担い手により作付けが何とか対応出来ても、そのための用水路等の共同作業が離農により持続が困難となっており、それが水田の管理の上での大きな問題となっているとのことである。

なお、このことに限らず現状の農業経営でも、労働者の確保がとても困難 となっている現実もある。そのことに経営が振り回されない、悩まなくてよいのは経営者としてとてもメリットがあるとのことからも、現状、日本中での多くの地域が水田での渇水の危機に瀕している現状を垣間見ると、水田での水の確保の問題と共に、経営上の大きな心配事が、この水無し水田に取組むことで顕在化しないことが、経営者の山本氏としては何より有難いとのことであった。

(5)最後に、日本の水田における温室効果ガスの発生量についてだが、農林水産省のHPで最新の※22018年時点でのデータを見ると、二酸化炭素換算による農業分野での発生量は5,001万トン。そのうち水田からは27.1%の約1,356万トンの二酸化炭素換算量のメタンが排出されているとある。

このことから、現在の主なメタンの発生抑制手法としては、水田の中干期間の延長でその発生量の約1/3が削減出来るとこのHP資料にもあるが、水無し水田によりメタンを完全に抑制できれば、それだけ温室効果ガスを抑制出来ることになる。現状での農林水産省での削減目標は、政府のムーンショット事業の実施により、約3割を削減することを2050年の目標に掲げているが、水無し水田を全国に普及することで2050年を待たずに、この目標を早期に達成することが可能となる。まさにイノベーションが現実に起きることになる。

Ⅱ 農業経営におけるこれからの企業価値向上のために必要なこと

1.経営での定量化・見える化のスキル

(1)上場している株式会社における会計であれば、経営者は通常、アカウンティングと呼ばれる一定の決められたルールに基づく、定量化したデータを見ながら客観的に経営判断を行うこととなる。

ただ、日本の農業経営の場合、上場しているのは稀であり、殆どが家族経 営的な法人であることから、このようなアカウンティングのスキルを持って、経営の定量化・見える化での経営判断を行っているとは言い難いのが現実である。

この典型的な例として、家族経営の農業では身内の人件費を全く見ていないので、最後に赤字にはならなかったように見えたが、詳細に計算をすると経営者の時給が100円台だったような話がある。これなどは、まさに経営と生活がどんぶり勘定でアカウンティングが行われていると考えられ、法人化してもその延長で農業経営が行われている証左である。

このため、今回は企業会計の考え方に沿って、将来的に「合同会社共和町 ぴかいちファーム」をバイアウト出来る企業価値に上げること、またその際にM&Aをする側の農業経営者等が納得出来る経営者給与を受け取っていることがベースにあるべきだとして、予測財務諸表において、経営者である山本氏の15年後の年間給与の目標額を2,000万円としたところである。

(2)そのような考えを踏まえると、一般に経営学でアカウンティングと呼ばれる会計には、財務会計、管理会計及び税務会計の大きく3つの会計があることから、それぞれの会計を理解し、それを駆使して経営を行うことが、農業においても経営者は求められていることを強く認識すべきであると感じる。

ここで各3つの会計について詳細な内容を列記することはしないが、法人であればいわゆる財務会計が先ず基本であり必須である。会社法で決められた財務諸表を作成することが求められていることから、行政書士としては法律的な観点からも、経営者である以上、農業でも先ずは会社法の入門書は必ず読むことをお勧めする。

特に、日本の場合、財務諸表においてフローであるP/Lを重視する傾向があるが、実は先にストックであるB/Sの方を重視するべきであり、暦年の経営の積み重ねた結果であるB/Sこそが、今の企業価値を的確に表していると経営者は感じるようになるべきである。

(3)なお、農業分野のみならず経営者であればアカウンティングで一番関心が高いのは税務会計だと感じるが、これは財務会計とは解釈の部分も含めて、税務当局の認識と完全に一致はせず、通常は多少のずれが生じるものである。実際には農業でもやっている法人が多いとは思うが、先ずは簿記の原則と財務会計をしっかり理解した上で、専門の税理士等に丸投げするのではなく、適宜相談しながら、一緒にその関連する法制度の目的や主旨に基づいて、自分事として適切に対応していく必要がある。

(4)私は55歳から働きながら経営大学院に通って経営学を学びアカウンティングをマスターし、商業簿記も取ったことからも、現状そのスキルが十分でないと感じる経営者も、是非、年齢や忙しさを言い訳にするのではなく、今すぐに学ぶことをお勧めする。人生は死ぬまで学びであり、問を立て続けるものである。さもなくば、この激変するVUCAの時代に法人経営など出来る訳がないと自覚するべきである。

2.ファイナンス(投資)のスキル

(1)ファインナンスの基本のキと言えば、「今日の100円は、明日の100円よりも価値がある!」というのが根本的な考え方だが、今回、経営者の山本氏から現状の経営での適切な穀類の乾燥調製施設を数年にまたがって新設をした上で、その面積の抜本的拡大を目指す経営転換を図りたいとの意向を受けて、令和20年度までの企業会計に準拠したP/Lでの予測財務諸表の作成をした。

実は、これがファイナンスおける最も基本的なスキルの一つであり、勿論、株式投資やM&Aでの企業価値の算定もこのスキルでは重要だが、要は適切な投資判断が出来ることがこのファイナンスにおけるスキルの肝なので、勿論、農業での投資においてもこのスキルは必須となる。

(2)経営者の山本氏からは、最初に5,000万円を3回に分けて、一度にではなく順次投資していくオプションでの投資スキームの提示があったので、その投資規模やそもそもの投資の適正性を私から論じることはしなかったが、投資したことで「合同会社共和町ぴかいちファーム」の経営がおかしくなることは避けなければならないので、その影響度がどの程度かについて、現状の経営内容と経営転換の目標値から作物別に出来るだけ詳細に計算をした。

(3)その詳細なデータについて、経営者の山本氏はしっかりと理解した上で、今後はその計画に基づいて経営転換を図るとされており、まさにそれが出来るのは、アカウンティングやファイナンスのスキルがあるからに他ならないので、山本氏の場合、ご両親からの今の農業経営を引き継ぐ前に、アメリカやスイスで農業経営のための留学をされたことが、今の視野の広さ、またこのような水無し水田というイノベーションへの果敢なチャレンジのベースにあるのではないかと私は強く感じた。

是非、多くの農業経営者が山本氏のように、日本だけでなく世界を見て農業経営に取組むことで、欧米のようにアカウンティングやファイナンスのスキルが自然と日頃の生活の中から養われるということに、本当に早く気付いてもらいたい。

Ⅲ 考察(まとめ)

  • 昨年の9月初旬に初めて、今回の北海道岩内郡共和町内にある、「合同会社共和町ぴかいちファーム」経営者の山本氏にお会いして、最初の40aでの水無し水田への果敢なチャレンジの取材をさせて頂き、今回は更にその拡大について、本当に適切な投資となっているのか。また、経営者としての経営判断に大きな誤りはないのかについて客観的な視点での財務分析を私なりに実施した。
  • この結果、この投資はまさに適切な判断である。そして、このリスクテイクで発生する可能性がある要因の影響度を事前に想定することで、農業なので特に自然災害などの予期せぬことが発生した場合でも適切な対応が可能になることを、経営者の山本氏も十分に理解されていることが確認できた。私としては今後の経営に特段の不安は感じないが、農業経営においてもアカウンティングと、特にこれからはファイナンスのスキルも必須であり、それはグローバルでの広い視点を持つことが重要だということを、逆に私が経営者の山本氏から学んだ。
  • 最後に、地球温暖化防止のための2050年でのカーボンニュートラルの実現のために、農業分野でも多くの取組が積極的に進められており、勿論、Jクレジットはその重要なインセンティブであることは間違いない。しかし、この水無し水田での温室効果ガスであるメタンの抑制はまさにイノベーションであることから、行動経済学でのナッジ理論にも通じることではあるが、全国の農業関係者のモチベーションを高めて、この水無し水田を日本全体に広げることで、カーボンニュートラルに貢献し、地域活性化のための活動の財源としても活用できる収益がしっかりと数字で定量化・見える化出来たことが、思わぬ今回の取材の成果だと言えると、最後に手ごたえを感じているところである。

※1:農林水産省「稲作の現状とその課題について」、「生産及び統計」、「作物統計」等
※2:農林水産省「気候変動に対する農林水産省の取組」引用

梶山正信
一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(行政書士)

筆者プロフィール
 1961年生まれ
 2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、行政書士として活躍中
 2023年からは、早稲田大学招聘研究員として、カーボンニュートラル、地域活性化等を学んでいる。

━以上━

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1460/

2023年7月28日号(通算23-16号)

『~短期集中レポート~“農業で学ぶ”小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦』を書籍にしました。

2023年5月から連載を開始した『~短期集中レポート~“農業で学ぶ”小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦』を1冊の本にまとめました。

こちらのWEB上で見られるコーナーと電子書籍形式、さらに印刷用のPDFを用意しています。

電子書籍URL: https://www.hal.or.jp/wp-content/uploads/ebooks/20230728_document-report/HTML5/sd.html

印刷用PDF: https://www.hal.or.jp/wp-content/uploads/ebooks/20230728_document-report.pdf

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1447/

2023年7月19日号(通算23-15号)

事務所移転のお知らせ

HAL財団は、本部事務所を以下の所在地に移転しますので、お知らせいたします。
新事務所は地下鉄東西線西11丁目駅から徒歩1分と、今まで以上に利便性の良い場所になります。どうぞお気軽にお立ち寄りください。

■移転先所在地
〒060-0042
札幌市中央区大通西11丁目4-22
第2大通藤井ビル 4階

■電話
011-233-0131

■FAX
011-206-8100

■移転先での業務開始日
2023年8月1日(火)から
※現所在地での業務は、2023年7月27日(木)をもって終了いたします。

■移転先案内図

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1436/

2023年7月18日号(通算23-14号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(10)

磯田 憲 一

2023年5月16日、美唄市役所で開かれた記者発表の場で、板東知文美唄市長、そして石塚教育長から正式に小学校における「農業科」授業のスタートが正式発表されました。従来発想を乗り越え、新しい取り組みの扉を開けることは、どのような分野であっても、勇気とエネルギーのいることですが、美唄市、そして美唄市教育委員会は、子どもたちたちの「生きる力」は勿論、多様な生命に対する敬愛の思いを育むことの大切さを深く認識し、北海道では初めて、全国でも二例目という先駆的取り組みをスタートさせることになりました。
 中村桂子さんの「農業科」教育への深い思いと、美唄市、美唄市教育委員会の挑戦を繋ぐ役割をささやかながら果たしてきたHAL財団の立場で、板東市長の記者発表に同席し「農業科」教育の推進をサポートしていく思いを、次のように申し述べさせていただきました。
 
 『板東市長、石塚教育長から説明のあった、美唄市内の小学校のカリキュラムに「農業科」を組み入れるという決断は、まさに北海道農業に新しい季節、新しい春を呼ぶチャレンジと言えるものです。
 福島県喜多方市長の時代感覚の鋭さ、そしてその喜多方市長に一歩を踏み出させた中村桂子さんの、時代を透徹した感性、それらがなければ、日本における小学校の「農業科」教育の旅立ちはありませんでした。
 中村桂子さんは、SDGsなどという流行語が生まれる遥か前から、生きものとしての人間の「在りよう」を語り続けてきた方です。中村桂子さんが語り継いできた感性と言葉に、時代がやっと追いついてきたのです。中村さんは、「生態系のトップにいるような錯覚から生まれる“上から目線”ではなく、生きものとしての“中から目線”が大切」と語り続けてこられました。その中村さんとの不思議なご縁や、喜多方市の優れた取り組みとの出会いが、13年の歳月を超えて、この北の大地・北海道に「知恵のバトン」が辿り着きました。
 
 明治2年(1869年)に北海道開拓使が置かれ、本格的な農地開拓が始まって154年。今や北海道は食糧基地の役割を果たすまでになりましたが「北海道は農業が基幹産業」と標榜しながら、人間教育のスタート時とも言うべき小学校教育に「農業」の持つ力を学ぶ「農業科」を組み込む発想は、これまで農業や教育を担う機関からは勿論、農業界からも出てくることはありませんでした。
 しかし、昨年夏、中村さんから的確で普遍的なアドバイスをいただき、北海道で初めての「農業科」教育が、この美唄から始まることになりました。

 中村桂子さんは「農業科は、子どもたちの“生きる力”を引き出す。日本中の小学校に農業科ができたら、日本はすばらしい国になるでしょう」と語り続けてこられました。そして多くの方も、これからは「農業の時代」だと指摘しています。しかし、それは、生きる上で食糧確保が何より大事、という意味だけでなく、地球環境が困難な時代を迎えている今、生きものとしての人間が、生きる仲間たちの生命をいただくことで支えられていることを深く認識し、生きものとして踏まえるべきものを学ぶという意味も含めた「農業の時代」でありたいと思います。

  (写真提供 美唄市教育委員会)

美唄市が「農業科」教育をスタートさせたからといって、そうした時代が直ちに実現するような容易い道のりではありません。しかし、千里の道も一歩からです。美唄市のチャレンジが確かな道のりへの第一歩となり、いつの日か、北海道全体の「スタンダード」になることを心から願っています。
 その思いを込めて、HAL財団の中に、今日を期して、「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」を設置いたしました。このチームの活動を通じて、美唄市、美唄市教育委員会が進める小学校における「農業科」教育という「美唄モデル」の輪を、北海道だけでなく日本各地に広げていく活動に取り組んでいきたいと思います。このチームには、中村桂子さんも、心からの喜びを持って参加してくださいました。共に手を携えて「農業“で”学ぶ」輪を広げて参ります。
ご理解とお力添えをどうぞよろしくお願いいたします』

(完)

(注:肩書は当時のもの)

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2023年7月11日号(通算23-13号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(9)

磯田 憲 一

明治2年に「開拓使」が設置されて以降、農地開拓や農業開発が営々と続けられ、今や農業を基幹産業とする北海道。しかし、154年此の方、今日に至るまで、どこからも、誰からも発意されることなく、実現されることのなかった小学校での「農業科」教育が、穀倉地帯の一角・美唄市で始まることになりました。農業王国を謳う北海道で、「農業」の秘める“もう一つ価値”に新たな光が当たる取り組みがスタートしたのです。「農業“を”学ぶ」取り組みは、これまでもさまざまな場と形で行われてきましたが、その枠を超えて、生きものの一つという事実の上に立ち、「農業“で”学ぶ」ことを通して、この地球を持続可能な社会とするための遥かなる道のりに向けた、小さな自治体の大きな挑戦と言えるでしょう。未来から振り返ってみると、「百年の計」に連なる確かな歩みの一歩だったと語り継がれていくに違いありません。
 
2023年5月16日、美唄市の板東知文市長が記者会見を行い、美唄の未来を切り拓く思いを込めて、北海道で初めての小学校における「農業科」授業のスタートと「農業科読本」の発行を正式発表しました。板東市長の発言の概略を報告したいと思います。
 
『私が美唄市の教育長だった時、農業の持つ力を次代を担う子どもたちに伝えていきたいとの思いで、2010年度から「小学校農業体験学習」をスタートさせ、「農業体験学習副読本」も作成しました。それは、福島県喜多方市の先駆的な取り組みを知ったことが契機でした。喜多方市は、2007年から、小学校で「農業科」授業をスタートさせました。喜多方市が日本初の「農業科」に取り組んだのは、生命科学の第一人者として「生命誌研究」を構想した中村桂子さんが、「人間は生きものであり自然の一部」という事実をもとに、「子どもたちが、生きることの本質を学ぶ機会として、“小学校で農業を必須に…”」と提唱したことを受け、その熱い思いに共感した当時の喜多方市長が、「農業科」を小学校教育に組み込んだのです。

 その中村桂子さんが、昨年(2022年)8月、美唄市内の「アルテピアッツァ美唄」で講演される機会があり、その折、前述したように、中村さんから「農業の体験学習は今や一般的だが、あくまで体験の域にとどまる。学校の時間割の中に、国語、算数、理科などと同じように“農業”と明記されていることが大切で、そのことで、子どもたちの心に“農業”への思いが刻まれる」という貴重なアドバイスをいただきました。

 中村さんの次代を見据えた的確なアドバイスを踏まえ、美唄市としては、今年度から小学校の授業時間割の中に「農業科」を組み込み、継続的に「農業で学ぶ」取り組みを進めていくことにしました。また改訂版づくりを進めていた「副読本」についても、“副”を取り、「農業科“読本”」として発行し、「農業科」授業を進めていく手立てとしての役割をより明確にしました。
 今回発行した「農業科読本」の第一章に、美唄の子どもたちに向けて「あなたが生きものであることを学ぶ農業」と題した中村桂子さんのメッセージを掲載することができました。今を生きる全ての人たちの心にも届けられるべき、深いスピリットに満ちていると感じます。
 この読本に基づく「農業科」授業を通して、子どもたちの心に、この地球に生きる上での謙虚さ、同じ生きものである仲間たちに向けた優しい眼差し。さらに、その学びを通して美唄の子どもたちの胸に、この美唄、そして北海道に育ち暮らした「誇り」がゆっくり湧き上がってくることを信じたいと思います」。

私が教育長であった時代にスタートした「農業体験学習」、「副読本」が、13年の歳月を経て、「農業科」そして「農業科読本」へと進化し、全国でも類い稀な先駆的取り組みとして新たなスタートを切ることになったことは、美唄市の未来に向けた地域づくりにとって、大きな意味と価値を持つと考えます。
 「農業科」の推進に先駆的に取り組み、大きな成果を上げている福島県喜多方市とも連携の輪を広げ、「農業の時代」と言われている今日、農業の持つ根源的価値を深めていく役割を果たしていきたいと思います』

2023年5月16日(火)美唄市役所での記者発表模様
 (写真提供 美唄市教育委員会)

(注:肩書は当時のもの)

  (第10号に続く)

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2023年7月4日号(通算23-12号)

〜短期集中レポート〜 “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦 (8)

磯田 憲 一

 編集委員会の皆さんの尽力と、関係者の願いが実り、2023年4月下旬、「美唄市小学校農業科読本」がついに完成しました。

 その「読本」の最初のページに、第一章として美唄市小学校農業科読本編集委員会特別アドバイザーの立場で中村桂子さんが執筆した「あなたが生きものであることを学ぶ農業」と題するメッセージが掲載されました。優しさに充ちた言葉で、生きものの一つとしての私たち人間の在りようを綴り、「生きものはみんな仲間ということがわかってくると、たくさんの仲間と一緒に生きていくことが楽しくなってくるに違いない」と語りかけています。

 そして、「農業科」で“農業で学ぶ”ことの意義を、中村桂子さんはメッセージの中で次のように語っています。「農業科は、自分で食べものを作って自立して生きていく力をつけると同時に、人間同士はもちろん、全ての生きものがつながった仲間であり、みんなで支え合いながら生きていくことが大事だということを学べる楽しい時間です…」

 中村桂子さんが語られているように“農業で学ぶ”のは、生きものとしての仲間を大切にする心であり、さまざまな生きものに支えられて生きている“つながり”の心だとすれば、「農業科」という取り組みは、仲間としての生きものに感謝する心を「農業」を通して身に染み込ませていく場とも言っていいと思います。

 そうした意味からも、美唄市、美唄市教育委員会が、「時間割」の中に「農業科」を組み込み“農業で学ぶ”場をスタートさせることは「農」の大地・北海道を未来から振り返ってみた時、その意味するものは深く、画期的なものであったと実感することになるに違いありません。

 そうした思いを共有し「北海道農業に新しい春(HAL)の息吹を…」の願いを込め、2022年4月に思い新たに再スタートしたHAL財団は、美唄が進める「農業科」の伸展を支えるとともに、その輪を各地域につないでいく役割を果たしていきたいと考えています。

 そのための推進チームとして、HAL財団内に「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」を設置することにしました。

 このサポートチーム設置には、中村桂子さんも賛成、共感してくださり、チームの一員(特別顧問)として参加していただくことになりました。嬉しく、ありがたいことです。

 サポートチームは、当面次のようなメンバーで構成し、取り組みを進めていくことにします。

「“農業で学ぶ教育”の輪をつなぐサポートチーム」
特別顧問 中村桂子(JT生命誌研究館名誉館長)
代表   磯田憲一(一般財団法人HAL財団理事長)
田尻忠三(一般財団法人HAL財団常務理事)
村上孝徳(美唄市教育委員会教育部長)
羽深久夫(美唄市教育委員会特別アドバイザー)
(メンバーは、状況に応じ、随時必要な方に参加いただきます)

(注:肩書は当時のもの)

 (第9号に続く)

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