HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年3月5日号(通算 23-41号)

第19回 HAL農業賞贈呈式を開催しました

2024年3月1日、JRタワーホテル日航札幌で第19回HAL農業賞贈呈式を開催しました。今年のHAL農業賞は、長沼町の株式会社押谷ファーム、同じく長沼町の桂農園、 新篠津村の有限会社有限会社ファーム田中屋に優秀賞が贈られました。贈呈式では、表彰状と副賞が渡され、その後 HAL 財団役職員、ゲストとの懇談の場を設け、受賞者の皆さんと懇親を深めました。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1733/

2024年2月27日号(通算23-40号)

書籍紹介 「幸せの条件」

今回は小説を紹介。
初版は2015年8月と10年近くも前になる。改版が出たのが2023年5月という本だ。誉田哲也著「幸せの条件」

ストーリーは、理化学実験用ガラス器機メーカーの「役立たず社員」瀬野梢恵に、まさかの社命が下された!それは、単身長野に赴き、新燃料と注目されるバイオエタノール用米栽培の協力農家の獲得だった。行く先々で断られ続け、なりゆきで農業見習いを始める梢恵。だが多くの出会いが、恋も仕事も中途半端だった彼女を変えてゆく―。

誉田哲也といえば幅広いテーマで小説を書くが「ストロベリーナイト」に代表される姫川玲子のシリーズや「ジウ」といった警察小説の印象が強いが、今回は農業がテーマである。

解説によると、十年余りに渡り構想を温め2011年7月から読売新聞社のウェブサイトで連載されたという。

主人公は、東京の小さな理化学ガラス機器を作る会社に勤める24歳の女性社員。大学理学部を卒業しているが、開発などの業務には携わることができない。しかも仕事の意欲はない。恋人ともうまくいかない。その主人公にある日転機が訪れる。社長から長野県に出張が命ぜられるのだ。その目的がバイオエタノール用のお米を作ってくれる農家を探すこと。

小説のなかで重要なポイントとなるのが、東日本大震災だ。震災に遭遇し、長野に移住。しかし、農業法人社長の従兄弟が福島県から長野県に越してくる。もう福島ではお米は作ることができない、と。

10年も前の作品であるが、お米を食べ物としてだけではなく、新たなエネルギー資材として捉えたり、農業現場と違う業種の「常識の違い」「言葉の違い」などなど、思い当たることが多々あるのだ。私にとっては「あぁ、そうそう」「なるほど」「同じだ」となるのだ。

そして、誉田哲也が本書でテーマとした課題はどうなっているのだろう、と気になる。解説を記した読売新聞メディア局の田中昌義記者の文を一部紹介しよう。

「ところで、誉田さんが本作で示した社会課題は今、どんな状況にあるのだろうか。カーボンニュートラル(脱炭素)社会実現のための切り札の一つとして期待されるバイオエタノールについては、我が国では高コストという経済性の問題などがネックとなり、今のところ幅広い分野で普及しているとは言い難い。ただ、世界中でサステナブル(持続可能)な社会に向けた取り組みが進む中、国内でも新たな動きが出てきている。」と記している。

今まさに話題となっているのが、カーボンニュートラルだ。これからの農業界が直面する課題の一つだ。

私がこの本に強く惹かれたのは、とにもかくにも農業の現場がイキイキと描かれ、魅力的な職業であることが伝わってくるからだ。もちろん、人間関係や繁忙期の忙しさ、多くの多くの大変さも書かれている。しっかり取材したことが分かる。

そして、農業は農業だけではなく、他の産業と連携する必要があったり、新しい収益の基軸になる「可能性」をも追いかける姿が丁寧に描かれているからだ。

誉田哲也が得意とする人物像。葛藤、悩み、そしてそれを突き破る姿。非常にさわやかな気持ちになる小説だ。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1726/

2024年2月20日号(通算23-39号)

農業経営レポート

 

“ “Seek out innovators” を掲載します。

                             

 筆者の梶山氏は元農水省職員。現在は、千葉県で一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、特定行政書士として活躍中。

前回(2023年12月5日号(通算23-28号))に続く農業経営の視点からのレポートです。

 それでは、この先はレポートになります。

 なお、この文章は、筆者個人の見解であり当財団の公式見解ではありません。


“Seek out innovators”Ⅲ ~東海地域での『乾田直播』の取り組み~

 レポート:梶山正信

Ⅰ セミナー概要

1.セミナーについて

(1)有限会社サポートいびの主催で、2023年8月9日午後に岐阜県揖斐郡池田町の東公民館で2部構成により開催された「未来につなぐ農業Ⅱ直播現地検討会in岐⾩」に参加したので、その模様をレポートする。
1部はメインの会場でのセミナーであり、2部は会場すぐそばの乾田直播の水稲を徒歩で見る内容であった。本記事では、第1部の会場でのセミナー模様をお伝えする。

(2)このセミナーのモデレーターは、北海道共和町での山本氏の水無し水田の取り組みをサポートしているバイオシード・テクノロジーズ(株)の広瀬氏であった。
 参加登壇された皆さんは現在の農業業界では著名な方も多く、そこでの話題が今の農業経営の枠を超えた視点を持っており、とても異彩を放っていた。今回は、私が特にイノベーティブだと感じた内容について記述する。

<当日の第1部セミナーでの壇上での登壇者>

2.本セミナー

(1)当日の13時30分から本セミナーが開始された。主催者の高橋氏の開会挨拶で始まり、最初の事例紹介は農研機構西日本農業研究センターの岡本氏からの「滋賀県における乾田直播栽培の取り組み」であった。
 私が驚いたのは、事例にあげられていた乾田直播10.2俵(614㎏)が、その対象区として通常の移植(田植え)で10.4俵(626㎏)と殆ど見劣りしない収量が得られているということだった。そして、それ以上の驚きは、この作付け体系を導入すれば効率的に大きな面積をたった一人でこなせることで、労働時間を現状から4割減にすることが可能であるということであった。
このことにより、農林水産省OBの私としては、現状から大幅なコメの生産費コストの削減が可能になるという説明が、農研機構という公的な機関から冒頭に説明されたことにまず驚いた。

(2)私も、WEB版HALだよりに掲載している「Seek out innovator」で2回に渡って北海道共和町での山本氏の水無し水田の取り組みについて経営分析を行っている。その時の分析では、現状より労働時間を1/2から1/3に削減出来ているという山本氏の実態から計算しているところである。確かに、そのことと比較すれば乾田直播で労働時間の4割減というのは、十分に可能な数字ではないと説明を聞いていて素直に感じた。
 その説明を経て、モデレーターの広瀬氏がヤマガタデザイン(株)の中條氏に現状での同社の乾田直播の取り組みについて、そして将来の見通しについて口頭で話を求めた。まさに、その内容がまさしくイノベーティブな内容で、農業経営の視点として本当に驚くレベルでの内容だった。

(3)現状で農林水産省が公表している最新の統計データでは、日本の水稲の1戸当たりの平均面積は約1haで、その労働時間は216時間となっている。しかし、中條氏の説明では、同社ではそれが半分以下の100時間(一反10時間)程度だという。そして、将来目指すべき不耕起での乾田直播の理想的な体系が確立できれば、今やっている20haでも100時間をやや超えるレベルまでなら労働時間の削減が可能であると話があった。
 これは労働時間で言えば、同社の現状に比して1/20というレベルになる。これを基に試算すると1俵60㎏当たりの価格を6,000円以下にすることができる。つまり、日本の米で100円/kgを切るレベルまで価格を下げることが可能になる。(算定式)
 これは、今の国が公の目標にしているレベルをはるかに下回る価格である。それがいかに困難かを農林水産省OBとしては知っているので、再度農林水産省での最新の公表資料※でのコメの生産費の比較をしても、本当にそれが現実のものだとは、納得できなかったのである。

(4)その後に続々と登壇者の発言が続き、その中でもトゥリーアンドノーフ(株)の徳本氏も、自らも不耕起栽培にチャレンジしており、それが可能だと考えているとあった。さらにグローバルな視点を加え、GM作物や食用以外での活用も視野に入れていけば、それが十分可能なレベルだとの話だった。その時点で、私は本当にこれが実現可能だと確信に変わった。
 勿論、そのためには冒頭のプレゼンテーションを行った農研機構西日本農業研究センター岡本氏の乾田直播の作付け体系に、更に最新のテクノロジーである不耕起栽培技術を組み合わせが必要である。これは、日本の水稲栽培では今まで誰も経験していないことでの作付け体系のスキルが必要であることは言うまでもない。であれば、このようなことは今までの前例やしがらみなどをものともしない本セミナーの登壇者のようなイノベーターが日本で実現するしかないと感じた。

(5)現在の食料事情は、地球の人口増加で今後も続くであろう。そして、高騰する食料事情、またウクライナ問題等で現実のものとなった不安定な地政学の状況を考えれば今後も食に関する価格は上昇することはあっても下落することはまず考えられない。
 現状、日本のコメの生産は減少の一途だが、もし将来、これが日本で当たり前に実現されれば、コメの増産に転換することが出来るのではないだろうか。そして、日本は再び世界の生産国の上位に返り咲くことも可能ではないかと感じた。

3.北海道共和町での水無し水田の取り組みとのシナジーについて

(1)私は昨年今年と北海道共和町の山本氏が取り組んでいる水無し水田の取材している。山本氏は、初めての昨年は試験的に40aから水無し水田の取組を始めたが、今年はそれを一気に10倍の4haに拡大している。また、一部の酒米(移植)以外は、品種はコシヒカリとホシヒメでほぼ水無し水田での作付けに転換をして成功している。
 5月末時点の苗立ちの時期に圃場にお邪魔したが、現状、水無しで生育は順調であると聞いている。今年はやや分げつが少ないので、昨年よりやや収量は落ちるかもしれないが、このままなら収穫まで水無しでも、今年も生育は問題なさそうだとのことであった。

(2)山本氏も乾田直播での水無し水田技術、更に本セミナーで中條氏から話があった不耕起栽培に非常に興味があるとのことである。今後、水無し水田の面積を拡大する際には、その作付け体系の技術を取り入れたいとの意向もあるようだ。
 勿論、その進展具合は、今の水無し水田での取り組んだ結果と今後の水田の集積状況によるとは考える。ただ、現状が共和町の水田の多くが今後の作付けの継続が困難である状況からも、地元で担い手である山本氏に集積が進むであろうことは明らかだと私は感じている。

(3)今回のセミナー後に山本氏には私から乾田直播に不耕起栽培の技術を取り入れれば、水田の労働時間も、更に1/20にすることも可能だという内容を伝えた。山本氏も、私にそのレベルまで行くことが可能ではないかとの確かな返答があった。
 私にとっては本当にそんなことが可能なのかという内容であっても、イノベーターの思考を持っている皆さんには、ある種の破壊的イノベーションのイメージで日本の水稲を考え、実践していることに改めて驚かされた。

(4)北海道共和町の山本氏が、先駆的に確立した水無し水田の技術に、面積拡大に合わせて不耕起栽培の技術を将来導入し、中條氏に負けないレベルの労働時間の削減を実現することを願ってやまない。
 私は今後もイノベーターである山本氏の取組を注視していくこととしている。

<乾田直播の水田の様子。2023.8.9撮影>

Ⅱ 当日の乾田直播の圃場の状況

1.圃場での水稲の生育について

(1)乾田直播では、圃場で播種後に一定の高さに苗立ちした時点で、水入れを行うこととしている。ただ、説明をされたサポートいびの高橋氏は「必要があれば灌水を行うが、それまでは水無し水田を維持する」と、果敢にチャレンジしたいとことであった。

(2)北海道共和町で水無し水田に取組んでいる山本氏も同じで、いざという時は灌水できるようには圃場の対応はしている。これは農業では天候リスクがあるのは当たり前であり、特にこのような新技術での取組みであればそのためのリスクヘッジを二重三重にするのが、まさしく真の経営者であると感じた。

(3)この写真は、播種機でのドリル播種から約4ヶ月程度経過した乾田直播の水稲の状況である。この場所では灌水しなくても順調に生育をしていることから出来るだけこのままでチャレンジをしたいとあった。
ただ、場所によっては灌水しているところもあるので、乾田直播での生育 は順調だが全てがこのような水無し水田ではないことにはご留意願いたいと高橋氏からあった。

Ⅲ まとめ

今回のセミナーでは私も登壇者として北海道共和町での取り組みについて発言を求めらた。私からは「農業ではよく経営者の給与を全く考えない経営がなされているのを散見するが、まずそれが法人の経営者としては全くあり得ない。例えば、経営者である以上、時給1万円のレベルを目指すなど、農業でも経営者であれば明確に労働時間でのコスト意識を持つべきだ」とお話した。

  • 私がこの会場に来て一番驚いたのは、今回の会場は岐阜県でも交通の便が良い市内の中心地ではなく、言い方はあまり良くないが、田舎町出身の私から見ても同じようだと思えるような地域の一公民館であったにも関わらず140名を超える農業関係者が全国から集まったことである。さらにそこに農業関係では知らない人が居ないような著名な方が多数登壇していたということだ。この乾田直播の技術に対する興味、並々ならぬ生産者のニーズの高さを強く感じたところである。
  • 最後に、農林水産省OBとして、そして国産農林水産物の消費拡大国民運動の責任者として志を持って農林水産省で勤務してきた上での希望を記す。1966年に1,400万トン超の生産量があったコメが、最新の令和5年の予測値では693万トンと1/2以下になり、昨年の726万トンから大きく減少するのが確実な状況にある。日本では毎年コメの消費量は減少を続けており、少子高齢化の進展とも相まって、近年、毎年8万トン程度の減少が続いていたのが、更に拡大している危機的現状にある。このままいけば、瑞穂の国と言われた日本の伝統であるコメの生産優位性が世界から忘れ去られかねないレベルまで低下するのは火を見るよりも明らかである。本日ここに参加できたことで、今一度、このようなイノベーターの方々による素晴らしい農業技術の進展で、再び世界からコメで一目置かれるような日本の農業の未来が来ることに強い希望を持つことが出来た、素晴らしい内容のセミナーであった。

※:農林水産省「稲作の現状とその課題について」、「生産及び統計」、「作物統計」等

梶山正信
一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事(特定行政書士)

筆者プロフィール
 1961年生まれ 
 2021年まで農林水産省に勤め、現在は一般社団法人フードロスゼロシステムズ代表理事、特定行政書士として活躍中
 2023年からは、早稲田大学招聘研究員として、カーボンニュートラル、地域活性化等を学んでいる。

━以上━

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1717/

2024年2月13日号 (通算23-38号)

2024年1月トークセッション開催

第2回目となるトークセッションを開催しました。 初回は、昨年の1月23日。その後、北海道内では関係者による独自のセミナーや相互の視察などがあり、HAL財団主催のトークセッションに対する期待の声に応え、今年も開催しました。

12月にトークセッションの開催を告知したところ、わずか2時間で定員となるほどの人気です。当日は、道内各地から70人の農業関係者、話題提供者は20人を超え、熱いセッションになりました。

これからの農業ビジネスを考えていこうという趣旨で開催した今回のセッションには、農業以外の工業企業の方や流通事業の方などからも話題提供がありました。

13時半から18時までびっしりと意見交換を行い、さらにその後の交流会にも8割以上の方がご参加。多くの方から、夏期間でのセッションや次回は2日に渡って開催してほしいなどの声もいただきました。

この模様は、後日HAL財団公式サイトにて動画で公開する予定です。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1709/

2024年1月30日号 (通算23-37号)

HAL農業賞選考結果について(お知らせ)

一般財団法人 HAL財団(理事長 磯田憲一) が主催する 「第19回HAL農業賞」について、以下の通り決定しましたのでお知らせいたします。

今年度は、例年通りの現地調査を行うことができ、多くの候補の中から、選考委員会の厳正な審査を経て、HAL農業賞にふさわしい方々を選出いたしました。

表彰名 受賞者 副賞
HAL農業賞
優秀賞
株式会社押谷ファーム(長沼町) 賞金 50万円
HAL農業賞
優秀賞
桂農場(長沼町) 賞金 50万円
HAL農業賞
優秀賞
有限会社ファーム田中屋(新篠津村) 賞金 50万円

【第19回HAL農業賞贈呈式】

日時:2024年3月1日(金) 午後2時~
場所:JRタワーホテル日航札幌 36階 たいよう

広く取材、報道をお願いしたいのですが、会場の都合で冒頭の「贈呈式」(予定:午後2時から2時半ころ)のみを公開いたします。できましたら、事前にお申込みいただけるとスムーズに進みますのでご協力をお願いいたします。
贈呈式の様子は写真データとしてもご提供可能です。ご希望がありましたらHAL財団の担当までご連絡ください。

以上

~本件お問い合わせ先~
担当 HAL財団 企画広報室
〒060-0042
札幌市中央区大通西11丁目4-22
第2大通藤井ビル4階
山(やま)、上野(うえの)
e-mail info@hal.or.jp
電話 011-233-0131

第19回HAL農業賞受賞者一覧

表彰名 受賞者 受賞理由
HAL農業賞
優秀賞
株式会社押谷ファーム
(長沼町)
  • 生産基盤と収入基盤を合理的に考え、いわゆる産地ではない長沼町でアスパラ主体の経営を成功させている。
  • 人材が地域の宝、地域を支える要となると考え、積極的に新規就農の後押しを行い、地域に根付く人材育成を行っている。

以上のことから「第19回HAL農業賞優秀賞」とした。

HAL農業賞
優秀賞
桂農場
(長沼町)
  • 消費地、輸送拠点に近い地の利を生かした花き栽培では高水準の売り上げを誇り、道内花き農家のリーディングカンパニーになっている。
  • 事業の安定的発展のために、ベースとなる領域を花きだけではなく、高収益のブロッコリーにシフトさせつつ、複数の事業の柱を構築するなど中長期の計画的経営を実践している。

以上のことから「第19回HAL農業賞優秀賞」とした。

HAL農業賞
優秀賞
有限会社ファーム田中屋
(新篠津村)
  • 消費者から支持される、消費者が買ってくれるという視点での作付けを行い、早くから有機栽培に積極的に取り組んできた。
  • さらに、生産から加工、販売も平成17年には加工・販売を行う「ファーム田中屋」を時代に先駆け設立するなど、六次化農業のけん引者として活躍している。
  • 新しい生産技術へのチャレンジ、加工販売を通して、全道各地に田中氏を師と仰ぐ若手生産者が数多くいる。

以上のことから「第19回HAL農業賞優秀賞」とした。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1704/

2024年1月23日号 (通算23-36号)

ご存知でしたか? 小さな最中の大きな変化を!

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。

レポート:吉川 雅子

ご存知でしたか? 菓子メーカーの「六花亭」の「ひとつ鍋」のパッケージが去年の秋から変わっていることを。
鍋型の最中。若い時はそれほど心を動かすお菓子ではありませんでした。しかし、こういうお菓子が美味しいと思うお年頃になったようです。
「あ、中身がちょっと変わったのね」というだけではない“ステキな物語”をご紹介します。

◇豆のお話

~ちょっと豆の歴史を紐解いてみます!~

豆類は、人類が穀類に次いで最も古くから食用栽培した植物といわれています。私たち、日本人にとってもなじみ深い食材であり、さまざまな種類の豆類がいろいろな形で利用されています。
それらのほとんどが中国を経由して日本に伝わっています。大豆が弥生時代の初期に、小豆が飛鳥時代に、えんどう豆やそら豆は8世紀頃伝わったとされています。ただ、古代の遺跡から小豆の種子が出土されている例では日本が最も古いことから、小豆は日本が起源という説もあります。いんげん豆は中央アメリカから南アメリカが原産地と考えられ、ヨーロッパ経由で中国に伝わり、江戸時代に中国の渡来僧の隠元によって伝えられたという説が一般的です。

(いろいろな豆)

「大福豆(おおふくまめ)」と「手亡豆(てぼうまめ)」は同じく白い豆ですが!

豆には大きく「つる性」とつるなしの「わい性」に分けられます。つる性の豆の中でも、「大福豆」と「虎豆」「白花豆」「紫花豆」の4品目は「高級菜豆(さいとう)」と呼ばれています。これらは芽が出て、つるを出し、主茎頂部に花房を着けず、周囲のものに巻きつきながら伸長を続けます。草丈は3メートルほどにも及ぶため、「手竹(てだけ)」と呼ばれる長さ3メートル弱の竹製の支柱を用いて栽培します。
一方、わい性の「手亡豆」や「金時豆」は、主茎頂部に花房が着き、分枝して横に広がります。草丈は55~65センチメートル程度で、栽培時に支柱は不要です。
「大福豆」などつる性の豆は多くの手間がかかるため、わい性の菜豆よりも価格が高く流通されていたことから「高級菜豆」と呼ばれるようになったのです。

<言われないとわからない小さな変化>

◇「六花亭」の人気商品「ひとつ鍋」

「六花亭」の初代社長・小田豊四郎氏は、帯広の開拓をお菓子で表現しようと考え、“十勝開拓の父”とも呼ばれる依田勉三(べんぞう)の資料を読みあさりました。その中で「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」という句を知ることになります。
そののち、鍋の形をした最中の中に餡と求肥が入っている人気の商品となります(白餡のほかに小倉餡とこし餡がある)。
最初の「ひとつ鍋」の白餡は100%大福豆だったそうです。途中から値段の乱高下があったため、商品を安定供給するために大福豆と手亡をブレンドした白餡として提供を始めることになります。

◇白餡から「大福豆」へのきっかけ

浦幌町の畑作農家の十字農園の十字満さんは、5年ほど前に「六花亭で使う大福豆を栽培してくれる生産者を探している」という話を聞き、自分でも栽培してみようと思ったそうです。当時、地域では支柱として竹を必要とする豆では白花豆の栽培を推奨し、ほかの豆を栽培しようとする生産者はいませんでした。それは同じような形をしている大福豆よりも粒が大きい白花豆の利益率が高いからです。

「なぜ、十字さんは大福豆を作ってみようと思ったのですか?」
「六花亭のお菓子が好きだったし、栽培した豆が六花亭で使われるとわかっていることに魅力を感じました」。

栽培に取り組む際に関係者に確認したことがあるそうです。
「今栽培している白花豆よりも利益率の低い大福豆に取り組むには、今の自分たちの労働力やノウハウでは難しい」と。
そう投げかけた際に、「今の白餡のひとつ鍋は、いずれは大福豆100%の餡に戻すのが目標だ」と聞き、本当に必要な豆であると確認。「自分もその手伝いをしたいと思い、自分の農業の目標の一つにもなった」と言います。

◇手間暇がかかる大福豆栽培

最初は経験もノウハウも何もない、実験のような栽培から始まりました。作業によっては人手もかかることから、企業に応援を頼むといった協力関係の構築をしながらコツコツと続けました。
大福豆は5月下旬の種まきから始まります。発芽が揃い始めるとつるが伸び始めるので、4株を1組として4本の手竹を株の横に挿し込み、上部を交差させてゴムバンドで結束します(「竹さし」)。この作業は2人1組で行います。さらにつるが伸びてくると「つる上げ」といって専用テープなどで支柱から外れたつるを縛って固定します。その後、手作業による除草を繰り返します。7月後半には白い小さな花が咲き始めます。8月下旬から9月中旬は「登熟期」といって中の子実が膨らんできます。十分に大きく成長した子実は水分が抜け、鞘や子実が硬くなる「成熟期」を迎えます。そうなったら、根と茎を切る「つる切り」を行います。そのまま置き、10月上旬から中旬にかけて「ニオ積み」という作業を行います。竹を抜き、ひとまとめにして雨よけのテントをかけて1カ月ほど自然乾燥させます。この作業が一番大変だそうです。2~3人1組で行いますが、十分に大きくなったつるなので重さもあり、さらに自分の背丈よりも長い竹を抜いたりするのが本当に大変。その後は脱穀機による脱穀、手竹の片付けなど続きます。

☆ニオ積み体験

昨年11月、私は東京の知人たちと十字農園を訪れました。ちょうど大福豆のニオ積み作業の時期でした。大して役に立たない3時間ほどのお手伝いでしたが、終了時には肩や腕が痛くなっていました。これを広大な畑全部をするのは並大抵なことではないと痛感しました。

(大福豆)

(十字農園看板)

(やり方を教わる私たち)

(枯れたつると支柱の竹を抜き取る!)

(支柱とつるを分ける)

(支柱とつるを分ける 支柱は長くて抜くのが大変!)

(枯れたつるを女性の背丈くらいに積む)

(数時間でもお役に立ったかな) 

(雨に当たらないようにブルーシートをかける)

(上空から見たニオ積みが終了した大福豆の畑)

(収穫前の小豆。小豆は丈が低いから支柱がいらない)

◇5年の歳月がかかって実現!

毎年、大福豆の栽培面積を少しずつ増やし、効率性を重視したノウハウを蓄積させながら収穫量を増やしていきました。ここ何年かで、十字農園をはじめ数軒の十勝の生産者や他産地の協力で一定量の大福豆の供給ができるようになりました。
そうして、5年目の昨年11月10日、大福豆100%の「大福餡」が復活したのです。
十字農園はおよそ20ヘクタールの畑で、小豆や大豆、黒豆のほかにもいろいろな豆、小麦、ビート、ジャガイモなどを栽培しています。そのうち2023年は3ヘクタールほどが大福豆です。
大福豆の栽培面積が大きくなるにつれ、「ニオ積み」に関心のある道内外からの人たちが年々増加しています。また、六花亭の社員で、会社の許可をもらって援農する有志のグループが来ていて、昨年は延べ17人の社員の方が参加したそうです。
新しくなった小さなお菓子の餡には、時間をかけた、さまざまな思いが込められた物語が詰まっているのです。

最後に、
「十字さんにとって大福豆とは?」
「周囲で大福豆を栽培している人がいなくてノウハウが少なかったことが、逆に自分で一からチャレンジできる作物としてのおもしろさを与えてくれました。栽培はとても大変ですが、ひと手間かけると応えてくれる豆だいうことにも気付きました。そして、何よりも、六花亭をはじめ、農作業に携わりたいと畑に来てくれる農業以外の人たちの数が年々増え、その人たちとの縁を繋いでくれた大切な豆です」。
11月10日の販売初日、「大福豆」と書かれた新しい白餡の「ひとつ鍋」を求めに行きました。この5年にも及ぶ物語に、ほんの少しですが、偶然にも関わることができたことが嬉しくて、しっかりとコーヒーとともに味わいました。

(販売当日(地元の新聞広告))


プロフィール
吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。
著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

取材協力:十字農園 十字満 https://www.instagram.com/jmitsuru/

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1684/

2024年1月16日号 (通算23-35号)

書籍紹介 仕事の成果が上がる「自分ごと化」の法則

話題の書籍のご紹介。
「仕事の成果が上がる「自分ごと化」の法則」 千林 紀子著、‎ 有隣堂発行。

書籍の帯にはこう書かれている

「そうか、こう考えれば
楽しくできる!」

それを「自分ごと化」として一つの法則を経験してきた筆者。現在は、アサヒグループ初の女性社長として世界中を駆け巡っている。

出版社の案内には、
「一生懸命に仕事をしているのに、成果が出ない」と悩んでいるあなたに贈る1冊。そんなときには、仕事に「自分ごと化」して対処しませんか?

「自分ごと化」とは、お客様の課題や困りごとに対して、「自分ごと」と受け止めて行動することや全社視点で「良い意味でのお節介」をしていくことです。


筆者の千林さんは私より少し年下。そういえば、私の会社員時代の後輩たちも同じような壁にぶつかりながらも前に進んで行ってたなぁ、と思い出す。

考え方ひとつで違った見方や進み方が見つかると思う。そして、本書の中に記されていた「良いメンター(先輩)」との出会いが重要なことだなぁ、と改めて感じた。

メンターというのは、年上の先輩ということだけではない。年下でも経験豊富な人はメンターになる。そういうメンターの声を聞きいれることができるのもセンスだと思う。

農業経営の責任者にも、スタッフの一人にもお勧めの1冊だ。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1679/

2024年1月9日号 (通算23-34号)

第19回HAL農業賞選考中

今回で第19回目となるHAL農業賞。
内部審査を経て、外部選考委員、アンバサダーも加わった1回目の選考委員会が開催されました。

1月中旬に第2回目の選考委員会を経て、今期のHAL農業賞が決定する予定です。

(HAL財団 上野貴之記)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1671/

2023年12月26日号 (通算23-33号)

HAL財団 年末年始のご案内

HAL財団の年末年始休業日は以下の通りになります。

■年末年始休業日
2023年12月28日(木)午後~2024年1月5日(金)

1月4日(木)、5日(金)は職員有給休暇取得促進日としています。ご了承ください。

※2024年1月9日(火)から、通常業務を行います。

(HAL財団 企画広報室)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/1666/

2023年12月19日号 (通算23-32号)

財団職員のコンプライアンス研修を行いました。

HAL財団の常勤役職員を対象としたコンプライアンス研修を実施しました。
今回は、業務に関わる「著作権」を中心に学びました。
講師は、財団顧問弁護士の房川・平尾法律事務所から平尾弁護士に来ていただきました。
国内で発生した企業や団体の著作権に関する法令違反の実例を通して、どのようなことに注意すべきかを学び、日々の実際の業務で注意する点を習いました

SNSなど簡単に情報を発信することができるようになりましたが、どのような部分に注意すべきかは知っておかなくてはいけません。このようなコンプライアンス研修は、農業法人や農業経営でも必要と思います。ご要望があればHAL財団でどのような研修が必要かをご提案することも可能です。ぜひ、ご相談ください。

相談は、 メール:info@hal.or.jp までお願いいたします。

(HAL財団 上野貴之記)

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