HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年10月15日号 (通算24-29号)

札幌の中でも「清田区」が熱い!

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。
なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

レポート:吉川 雅子

私は仲間と「札幌農業と歩む会」で活動しています。“札幌市民に札幌の農業をもっと知ってもらいたい”というのが活動の目的です。
各区を巡る産地ツアーを企画したり、顔の見える野菜で食事会を提供したり、マルシェを開催したり…。
10区の中で一番輝き、区民みんなで盛り上げていると感じたのが「清田区」でした。
地元を盛り上げる地元愛に溢れる人たちをご紹介します。

2020年に出版した『こんな近くに!札幌農業』。札幌の農業を紹介しています

「清田」の始まりと「清田区」の誕生

1869(明治2)年、明治政府は「開拓使」という役所を置くことを決め、北海道に移り住む人々を募集しました。1871年に、岩手県から44戸の移民団が月寒に入りました。その後、清田や真栄、北野の厚別川周辺の稲作と、平岡や里塚、有明の畑作が定着し、集落として成り立つようになりました。

1891年には厚別川に用水路が建設され、1921(大正10)年頃から平岡や里塚ではリンゴ栽培が始まり、厚別川の周辺には水田が広がり、酪農も畑作地帯で始まっていきました。
「清田」という地名は、1944(昭和19)年、字名改称の際、“美しい清らかな水田地帯”という意味で名付けられました。

1961年に豊平町と札幌市が合併。次第に都市化が進み、かつての農村地帯から住宅地へと姿を変えていきました。政令指定都市施行に伴い、1972年、清田出張所が開設され、人口の急増に伴い、1997年11月、豊平区から分区して「清田区」が誕生しました。

札幌の地産地消を牽引する「清田区」

30年以上も前から清田区で作り続けられている「ポーラスター」という美味しいホウレンソウがあります。昭和50年代、減反政策により米からの転作作物として作付けが開始。その後、東京などへ出荷を進めようと、“北”をイメージできる英語の「北極星」の「ポーラスター」と名付けられました。清田の冷涼な気候ときれいな水、長い栽培の歴史で培われた技術力により、葉肉が厚いので日もちがよく、甘みがあってえぐみが少ないのと人気が高い。
現在は15名ほどの生産者が面積約13000坪のハウス栽培で、5月中旬から11月中旬頃まで出荷しています。

「桑島農園」の桑島誠さんは、現在18棟のハウスでポーラスターを栽培しています。3日に1回播種し、播種して4週目で収穫します。収穫後は土壌の消毒などをしてまた播種。一つのハウスで2、3回転しています。

以前は西岡でトマトやキュウリ、タイナなどを栽培していましたが、父の代に清田に移ってからホウレンソウ(ポーラスター)一筋に。それを継いでいます。

このポーラスターは、清田区の学校給食でも使われています。きっかけは、札幌市の健康・栄養調査で、札幌市民は野菜摂取不足とわかったことから。そこでポーラスターをはじめ、もっと野菜を食べようと清田区の栄養教諭や学校栄養職員の働きかけで給食に使用、身近な教材として食指導を行ってきました。また、清田区役所の食堂でも、野菜中心の健康食メニューや、地元生産者の野菜を使ったメニューの提供などを行っています。

「札幌伝統やさい」の存在

野菜名に「札幌」と付く品目があるのをご存知ですか?
大きなキャベツの「札幌大球」、明治から作り続けられているタマネギ「札幌黄」、人気のエダマメ「サッポロミドリ」、生産量が少ない貴重なゴボウ「札幌白ゴボウ」、そして、ピリリと辛い「札幌大長ナンバン」。これら5種類を「JAさっぽろ」では「札幌伝統やさい」に指定し、栽培や普及を行っています。これらの多くは清田区で栽培されています。

有明の「川瀬農園」では、0.9haの畑で多品目野菜を栽培。その中には「札幌大長ナンバン」もあります。収穫は主に8~9月。赤くなると「札幌大長ナンバン」としては出荷できないので、緑色で大きくなってきたものを採ります。
この「札幌大長ナンバン」は、昨年から札幌グランドホテルの「南蛮味噌」にも使われています。

緑色が鮮やかな「札幌大長ナンバン」
今年も豊作が期待される「札幌大長ナンバン」
昨年から製造している札幌グランドホテルの「南蛮味噌」。今年も仕込み中

区民が盛り上がる「ふれあい区民まつり」

1998年に文化的ホールを備えた区民センターがリニューアルオープンし、8月22・23日に、第1回目の「清田ふれあい区民まつり」が開催されました。今年も7月に、25回目が開催されました。

2017年に区政20周年を記念して開催された「きよたマルシェ&きよフェス」は、清田区の魅力を楽しめる祭典として毎年9月に行われています(きよたマルシェは2014年から)。

今年も、絶好のイベント日和となった9月7日に開催

ほかにも、きよたスイーツを広く知ってもらうため、ロングランのスタンプラリーも開催しています(8/1~10/31まで)。

この「きよたマルシェ」を盛り立てているのが、2012年からシイタケを栽培している「清田しいたけファーム」の代表の嶋川正洋さんです。ファーム名に「清田」を入れて、清田を守り立てています。
「清田しいたけファーム」では、ミネラルたっぷりの地下水を使い、湿度60%のハウスの中でじっくりと熟成された肉厚のシイタケが育っています。こだわりの栽培は従来の方法と異なり、「抑制熟成連続発生システム」を採用することで、一年を通して品質のよい肉厚なシイタケを安定的に提供しています。

清田しいたけファームの嶋川さん

清田区では、どこの区よりも農業が盛んです。その農業をベースに、産業はもちろん、地域の活性化や清田区の老若男女の健康などさまざまな面でまとまりがよく、取材をすればするほどステキな区だと改めて思いました。

「清田しいたけファーム」の「清茸」とポーラスター
羊ケ丘通り沿いある「シャトレーヌ 清田店」の「ポーラスター」を使った、その名も「ポーラスター」というケーキ

プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書

『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

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