
2025年9月2日号 (通算25-10号)
ブロッコリーはお好きですか?(2)
*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。
なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。
*2週にわたって掲載しています。
レポート:吉川 雅子
「ブロッコリー」が、国民生活に欠かせない野菜「指定野菜」に追加されるというニュースが2024年に報道されました。
指定野菜になると何が変わる? 変わらないの?
そもそも指定野菜って?
今回は、ブロッコリーから見た北海道農業の変化を少し紐解こうと思います。2回連載の第2回目となります。
減反政策で始まった道内のブロッコリー栽培
十勝のブロッコリーを牽引する木野農協
ブロッコリーは冷涼な気候を好み、現在の主産地は北海道、愛知、埼玉など。北海道産は春播き夏採りのもので、道内はもちろん全国へと出回ります。
生産統計を見ると、1978年に「野菜生産部会協議会」が組織された伊達市農協において、先行してカリフラワーを多く栽培。ブロッコリーの栽培も需要拡大に対応して増加したため、「カリフラワー、ブロッコリー部会」が発足されました。ほぼ同時期に、音更町の木野農協管内で生産がスタート。その後、道央の水田転作の拡大で、秩父別町や長沼町、江別市等で産地化が進みました。
木野農協では、1982年からの2年間、真空予冷試験機で道外移出に取り組み、1984年から真空予冷施設や温泉熱を利用した特産物センターを増やし、野菜の産地化を支えてきました。1986年からは、木野農協と音更町農協の両方の生産物を木野農協の施設に集め、共同出荷を開始。翌年には府県移出量トップの産地となりました。
年々増加してきたブロッコリー栽培に対応するために、1992年には、ブロッコリー選果施設と野菜予冷庫を新設し、府県移出体制を整備しました。1994年には製氷施設を作り、発泡スチロール箱にフレークアイスと花蕾を詰めて出荷するように。2007年には製氷機を増設しました。
農家が収穫したブロッコリーをミニコンテナで予冷庫に搬入、十分に冷やした後、共選場において目視と臭いで規格や腐敗を選別し、箱詰め、氷詰めで出荷する体系となりました。

1995年以降ブロッコリーは消費拡大により価格が上昇し、業務需要も多くなりましたが、一時期、アメリカからの輸入ブロッコリーが拡大して価格が低迷。各産地で拡大傾向が鈍り、音更町でも栽培面積は減少しました。
しかし、その後、国産の品質が評価され、国産志向が高まったことから道内での生産は持ち直し、音更町でも栽培が回復、現在約120haの一大産地として安定。府県の夏場のブロッコリーを支えています。


札幌圏の健康を支えるながぬま農協
長沼町は千歳川流域の平野で、石狩平野につながる水田地帯。しかし、1965年代の減反政策で、長沼町の基幹品目の水稲経営は不安定となり、水稲以外の栽培品目が検討されました。そこで、1988年に町内1区蔬菜振興会が、水稲に代わる野菜としてブロッコリーを試作しました。
1994年に長沼農協と北長沼農協が合併、「長沼町園芸組合連合会ブロッコリーグループ」が組織されました。2007年に名称を「ブロッコリー部会」に変更し、販売は全量加工業者に委託、1玉60円で契約販売を始めました。しかし、加工業者の処理量を大幅に超過する出荷量となり、他の業者にも出荷したため、安定して60円の支払いを受けられない状況となりました。そこで、製氷機をリースし、従来の加工業者だけでなく、市場出荷も加えて有利販売を目指しました。また共選事業も導入したことで、均一な品質が評価され、産地評価が高まりました。その後も、ブロッコリー栽培の増加はめざましく、2010年に苗の全自動移植機の助成事業が開始されるなど、栽培個数、面積ともに伸び続けています。
また、選果場も見学させていただきました。まず生産者から、店頭で並べる用に葉を落としたブロッコリーがコンテナに入れられて運ばれてきます。それを一晩冷蔵庫で冷やし、翌日選果場に運びます。

スタッフによって発泡スチロールに入れ替えられ、ベルトコンベアーに乗って、製氷機の前でフレークアイスが入れられます。

そのまま流れていき、自動で発泡スチロールの蓋をされて、トラックに積みやすいように並べられます。
「現在、約250haのブロッコリーの畑がありますが、この製氷機は300haくらいまでは対応できます」と青果部の山本大介部長。
長沼のブロッコリーの出荷は6月上旬から11月下旬。札幌圏や府県への出荷だけでなく、繫忙期の7月の1カ月間は台湾にも輸出されています。

人気のあるブロッコリーですが、懸念されているのが生産者の高齢化と気候の変化です。
特に気温の大幅な上昇や水不足は年々目を見張るものがあります。その対策として行われているのが「地下かんがい」です。用水路と暗渠排水上流部を接続し、かんがい用水を注水することによって、暗渠管を通じて地下水位を上昇させ、作土層内に水分を供給する方式です。また、機械による収穫など、人手不足を解消する工夫も急がれています。
2024年度の「ものづくり補助金」において、「指定野菜ブロッコリーの生産拡大のための省力化設備導入」で採択され、圃場ごとにかんがい装置を導入し、効果を上げている生産者もいます。
健康野菜のブロッコリー。多くの方がたくさん食べて健康になってくれますように!
プロフィール
吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。
札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。
著書
『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)