HAL財団

「家業」から「地域企業」へ

WEB版HALだより「テキスト版」

2024年11月19日号(通算24-34号)

白い花咲くそば畑から

 **今回の「WEB版HALだより」は、昨年大変好評だった、農業とは縁のなかった写真家・藤田一咲(いっさく)さんに、北海道農業の現場を見てもらい話を聞く企画の第2弾です。今回も3カ所の現場に足を運んでいただき、HAL財団・上野貴之が聞き手となる対談形式でお届けします。私は敬愛の気持ちから、今年も一咲さんと呼ばせていただきます。

(HAL財団 企画広報室 上野貴之)

そばの生産量日本一は?

●上野:一咲さんには昨年に引き続き、今回も北海道農業の一端を見てもらいます。そこからどんな風景、未来が見えてくるのか楽しみです。さて、今回の最初の取材地は新得(しんとく)町でそばを栽培する「はら農場」。
 一咲さんは東京の人だから、そばといえば信州、つまり長野市戸隠(旧戸隠村)のそば、いわゆる「戸隠そば」がすぐに頭に浮かぶでしょう? 
★一咲:「七つ長野の善光寺、八つ谷中の奥寺で、竹の柱に茅の屋根、手鍋下げてもわしゃいとやせぬ、信州信濃の新そばよりもわたしゃあなたのそばがいい」。
●上野:「あなた百までわしゃ九十九まで、ともにシラミのたかるまで」って? いや、それは男はつらいよの寅さんの啖呵売(たんかばい=ごく普通の品物を巧みな話術で売りさばく商法)のセリフですけど、信州信濃〜の部分は都々逸(どどいつ=江戸時代に生まれた、七・七・七・五の口語定型詩)です。
★一咲:「そばどころは信州」のイメージは江戸時代には確立されていたんですね。ぼくがそばは信州のものと思っていても不思議ではないですね。

●上野:そばはどこで作られていると思いますか?
★一咲:日本三大そばというくらいですから戸隠そばの長野県、出雲そばの島根県、わんこそばの岩手県あたりになるでしょうか?
 今回、北海道のそば畑に取材に行くと聞いて、北海道でもそばを作っているんだと改めて思いました。改めて、というのは、写真界隈では真っ青な空の下で白い花が一面に咲く北海道のそば畑はとても有名ですから。でも、それは観光客誘致のためのものだと思っていました。

●上野:あのですねえ、日本一のそばの生産地は北海道なんです。
★一咲:え、えええ?! それは知りませんでした。北海道の麺といえばラーメンでしょう? 札幌の味噌ラーメン、函館の塩ラーメン、釧路と旭川の醤油ラーメンなどが有名ですよね。北海道のそばで有名なブランドとか、全国的に展開している名の知れた有名店とかあるのでしょうか?
●上野:そうかあ、北海道のそばは日本一の生産量でも、全国的にはあまり知られていないのが現実なのかも知れないなあ。生産量全国第1位の幌加内町の幌加内そばとか、生産量全国第2位の深川市の多度志そば。そして私たちがいま向かっている新得町のそばは、北海道産ソバの代名詞と言われてます。町内を通る国道38号は通称「そばロード」と呼ばれ、北海道のそば畑の写真はここで撮られたものがほとんどでしょう。

両脇を森に囲まれた「はら農場」のそば畑。畑一面にじゅうたんのように見事に満開のそばの花が咲き誇っていました。遠くに見えるのは、はら農場のロゴマークにもなっているオダッシュ山。
青空ではないので、そば畑に抱いているイメージとは異なるビジュアルですが、可愛い小さな白いそばの花々の上を見たことがないくらい多くのモンシロチョウやハチが飛び交っていました。

そば畑の匂いの秘密

●上野:新得町は東大雪の山々と日高山脈に抱かれた山麓地帯にあります。ここは冷涼な気候で昼・晩の寒暖の差が大きいので風味豊かな美味しいそばが育つのです。
★一咲:寒暖の差が大きいほど植物は強く育つからですね。
●上野:強く育つにはエネルギーを蓄える必要がある。それがそばの旨味、甘味に大きく影響するわけです。
★一咲:北海道の気候は元々そばの栽培に向いているんですね。最近の厳しい暑さは、今後の生産量に影響しそうですが。
●上野:一咲さんはそば畑を見たことがありますか? 
★一咲:こんなに近くで、しかも満開の時は初めてです。しかもモンシロチョウやハチがたくさん飛んでいて、なんだか天国のような光景ですね。でも、ちょっと臭いような気もします。
●上野:小さくて可愛らしいそばの花ですが、よく言われるのが肥料のような、動物のフンやお酒が発酵しているような独特な匂いがするでしょう? そばは受粉が難しい植物で、人間には臭いけど虫の好む匂いを発して、虫を呼び寄せているのです。本州のそば畑周辺では、この臭いで近隣の住民からクレームがあることもあるとか。
★一咲:それでここにはモンシロチョウやハチがたくさんいるんですね。でも気にならないくらいの匂いです。もっと匂いが強いくらいの方が虫も集まりそうですね。

そば畑は花の見た目の美しい印象とは少し異なる臭いが。しかし、それはそばが受粉を行いやすくし美味しい実をつけるために頑張っている姿から来るものでした。
そばの花。茎が細い割には花が大きく、わずかな風でもよく揺れるような気がしました。畑一面のそばの花が風で揺らいでいる風景は、写真に撮るのは難しいですが、見ていて気持ちのいいもの。たぶん、これも虫たちと一緒に欠かすことのできないそばの受粉システムに組み込まれているのかも知れません。

美味しいそばは土作りから

●上野:一咲さん、ここの匂いはそばの花だけではないのです。はら農場は有機栽培のそば畑ですが、鶏糞と馬糞を合わせた堆肥も独自に自分で作っているので、その匂いでもあるんです。
★一咲:そこまで手間と時間をかけてそばを栽培しているんですね。
●上野:ここで大切にしているのは土作りからなんです。堆肥の他にクローバーなどの草も使っています。いわゆる緑肥です。クローバーは植えているだけで緑肥効果があり、畑にすき込むと堆肥としても利用できます。
★一咲:昔のレンゲみたいな感じでしょうか。どちらも化学肥料とは違う良さがあって、一緒に使うことでさらなる効果が望めるんでしょうね。でも緑肥はもう一つ作物を育てるようで大変ですね。

●上野:北海道のそば栽培の多くは「キタワセソバ」です。新得町では他に「ぼたんそば」や「レラのカオリ」を栽培していますが、はら農場では主に「キタノマシュウ」というそばを栽培しています。そばと緑肥の種まきの時期のバランスなどが難しいこともいろいろありそうですが、独自のノウハウがあるのでしょう。よく見ると、そばと一緒に他の植物も一緒に育っていますね。
★一咲:自然に近い環境で育てると、気候以外にも競争力が働いて元気で丈夫に育ち、より美味しいそばになりそうです。はら農場のそばを食べるのが楽しみです!

元気よく育っているはら農場のそば。その高さは一般的なそばよりも低めのようです。倒れにくい特徴があるのかも。そばとそばの間には他の植物も。それは放置ではなく、自然な環境で美味しいそばにするための戦略なのか。ここのそばはのびのびと誇らしげに咲いているように見えるのは気のせいでしょうか。
緑肥というのを初めて知りました。よい土を作ることからはじめ、そばを自然の植物本来が持っている力が発揮できる環境で栽培する。こんな自然農法で育てられたそばは、野趣あふれる風味の美味しいそばになるにちがいない。

そば栽培は命がけ

●上野:一咲さん、驚かすわけではありませんが、どこからか何か生き物の気配がしませんか? 
★一咲:たしかに! これは野良猫の気配ではないですね! 
●上野:ここはうっそうとした森に挟まれたほ場(農地を指す言葉)ですから、熊が出てもおかしくない。森の中に入ると、木の幹に鋭い彫刻刀で掘られたような熊の爪とぎ痕があちらこちらに見られますよ。これを人間にされたら、たまったもんじゃない。最近は熊の出没情報が多いし、悲惨な事故もあるので気を付けないと。
★一咲:気楽に天国のように綺麗なそば畑なんて言ってる場合ではないですね。そばの栽培は熊に襲われる恐怖と背中合わせ、命がけのところがありますね。ただでさえ、大変なそばの栽培にそんな危険も加わるとは。

●上野:熊の問題は、ここだけではなく北海道全体に言えるのですが、消費者はそんなことは考えませんね。
★一咲:その分を価格に乗せないといけませんね。先ほどの、受粉の難しさを考えると、これだけ手間をかけて栽培してもどれだけの量が収穫までいけるのかも気になりますし。畑一面咲いてる見た目の花の量から、いつも豊作のように見ていましたが、思ったほどではないのかもしれないし、また想像できない苦労もあるんでしょうし。

うっそうとした森に挟まれたような形状の土地にあるはら農場。ちょっと隔離されているようですが、それもここでの品種にいい効果があるのかも。ただ、森の中では夜間や人の気配がない時には、熊が歩き回っているのでしょう。
夏の猛暑に加え、熊出没の恐怖の中でそばが栽培されていることは今まで想像できませんでした。
森の中の木々のあちらこちらに見られる熊の爪とぎ痕。この爪とぎ痕は最近のもののよう。ずいぶん高いところについているので、これから熊の大きさを想像すると恐怖を覚えます。
森の外ではそばの花が満開。うっすら雪が積もったように白い花を一面に咲かせています。こうやって熊が人間の活動を森の中からじっと見ていたりするのだろうか。

新そばの味

●上野:一咲さん、新得町の毎年恒例「しんとく新そば祭り」(9月29日開催)から今年の、はら農場の新そばをお届けしますよ! 
★一咲:新そばと言っても、今まではハッキリとその味を実感したことがないので、それはすごく楽しみです! 土作りからこだわって作られたそばですから、ぼくの期待は大いに高まります。
●上野:はら農場のそばは「原氣(げんき)蕎麦」というブランドですが、その味、活動と地域の貢献がともに評価され、一般社団法人日本蕎麦協会の全国そば優良表彰事業で最高賞に次ぐ「農林水産省農産局長賞」を2021年に受賞しているお墨付きの品質です。
★一咲:上野さんから送られてきたのは、原氣蕎麦「新そば なま(八割生そば+飛魚つゆ付)」「新そば 十割 乾麺」「十割 石臼」そして「そばの実」に「蕎麦の妖精」というスパイスミックス。
もちろん、すぐに生そばからいただきました。まず色が濃い。これは濃厚な味わいが期待できる。しかも、茹でなくていい。電子レンジでチンできる。そばの香りの高さ、歯ざわりの良さ、味は甘味と旨みが強くちょっと木の実のような、濃厚なそばの風味。この味は初体験! これまでに食べたことのない美味さ。蕎麦湯も濃厚。これは実際に食べてみないとこの味はわからない、伝えられないのが残念です。
●上野:食べてばかりいないで、北海道農業的にはどう見られましたか?
★一咲:北海道のそばの生産量は全国でも圧倒的な一位。でも(少なくともぼくの周りでは)知名度が低い印象です。
売るための努力はしなくても十分に売れているのでしょうが、ブランド力を高めることも大切だと思います。
 そばはたんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルの五大栄養素が米や麦に比べてもいい、また必須アミノ酸もバランスよく含んでいると言いますから、もしかしたら主食になりうるのではないでしょうか。今年は米不足もありましたしね。そばで北海道農業もさらなる展開が望めそうですね。麺としてだけの食べ方以外も提案されると良さそうですね。また少し変わった味の品種を作るとか。
●上野:はら農場さんはそもそも「化学肥料や合成農薬に頼らずに、自然が持つ本来の力を活かして主食になりうるもの」を作りたいと思ってそば栽培を始めたようです。はら農場ではそばの実で造った発泡酒もあります。これからそばを使ったいろいろな商品の展開があるかもしれません。
★一咲:そばは外国でも生産されていて、食べ方もいろいろあるでしょう。伝統の食べ方の他の選択肢が増えると楽しいですね。

今年出来たてのはら農場の新そば商品の一部。生そばや乾麺の他、そばの実なども。生そばはレンジでチンしてまぜるだけのお手軽さで美味しくいただけます。
生そばを冷・温で。濃厚な甘味、旨味はこれまでのそば体験を一変させるほど。同梱されている飛魚(あご)のつゆがこれまた絶妙ないい味。赤いのは唐辛子、コリアンダーシードなどをミックスしたスパイスミックス「蕎麦の妖精」。
七味代わりに。少量で十分なアクセントになります。
黒い殻を取り除いた薄緑のそばの実。栄養が豊富で生活習慣病の予防・改善にも効果が望めるスーパーフードなのだとか。まず生で食べ、次に煎ってみましたが特に味はなく、煎ったものはお湯に入れて香りのいいそば茶に。次に白米と混ぜてそばの実ご飯に。これは香り豊かでモチモチした食感で美味しい!冷凍保存してもおいしさはそのまま。

藤田一咲(ふじた いっさく)
年齢非公開。ローマ字表記では「ISSAQUE FOUJITA」。
風景写真、人物写真、動物写真、コマーシャルフォトとオールマイティな写真家。
脱力写真家との肩書もあるが、力を抜いて写真を楽しもうという趣旨。
日本国内は当然、ロンドン、パリなどの世界の都市から、ボルネオの熱帯雨林、
アフリカの砂漠まで撮影に赴く行動派写真家。
公式サイト:https://issaque.com
写真:ISSAQUE FOUJITA

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2231/

2024年11月12日号 (通算24-33号)

動画版WEB版HALだよりを公開します! 夢の扉を開けませんか?十勝しんむら牧場

HAL財団では、農業賞受賞者のその後を取材しています。変わらず元気に農業に勤しむ姿に出会うと、非常に嬉しいものです。

HAL農業賞は、過去の実績に対して表彰を行うのではなく、将来に向けての期待をも込めて表彰を行っています。今回の取材は、2006年第2回HAL農業賞を受賞した「十勝しんむら牧場」を取材し、動画としてまとめました。


URL: https://www.youtube.com/watch?v=9ySzxhVLwyA

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2224/

2024年11月5日号 (通算24-32号)

ふらっと立ち寄り~共働学舎新得農場へ~

ふらっと新得の共働学舎に立ち寄りました。


すっかり秋の気配で、ミンタルもハロウィーン仕様でしょうか、色とりどりのカボチャが飾られていました。


第16回HAL農業賞優秀賞は新得町の共働学舎に贈呈しました。例年であれば札幌のホテルで、今までの受賞者のみなさんを招いての表彰式、祝賀会。しかし、その年はコロナ禍真っ最中ということもあり、式を行わないことも検討せざるを得ない状況でした。

如何にすべきか悩んだのですがHAL財団では「現地に赴く」という方法で“北海道農業を元気に” “明るい話題を”と考え、理事長の磯田憲一自らが共働学舎のある新得町に赴き、表彰状と副賞を贈呈することにしました。この提案を快く受け入れていただき、完成したばかりの施設、カリンパニにてHAL農業賞の贈呈式を開催することができました。

思い出深いカリンパニは変わらず素敵な佇まいでした。



散策していると、ヤギとブラウンスイス牛に出会いました。


カフェでは、農園で採れた野菜のピザと十勝マッシュのラクレット焼きをいただきます。どちらも、共働学舎の美味しいチーズを堪能することができました!また、ふらっと立ち寄りたいと思います。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2214/

2024年10月29日号(通算24-31号)

~HALクロストークセッション Vol.3~ 収録動画を公開します!

2024年8月19日。全道各地から集まった農家、農業事業者、関連事業者の面々。2023年1月に第1回のトークセッションを開催して以降、大きな反響を呼んだ「菌根菌」や「ビール酵母資材」。

また、収穫農作物の利用や流通といったロジスティックの問題にまで踏み込む話が飛び交うHALクロストークセッション。



2024年6月に農林水産省で開催された『米輸出促進に向けた、「未来の米づくり」対話』のコアメンバーが集まるこのセッションは、注目度も非常に高いものがあります。特に、その後のマスコミ報道で『乾田直播・節水灌漑(マイコスDDSR)による「超低コスト・低メタン輸出米」の可能性』が数多く取り上げられたことから、さらに大きなうねりが起こりつつあります。


このトークセッションがある意味「きっかけ」になったとも言えます。
今回は、その第3回の模様を余すことなく動画で公開いたします。

なお、全編は文字通り全編で時間も5時間を超えています。話題に応じてチャプター分けをしていますので、見やすい方をお選びください。

動画URLは
 全編: https://youtu.be/mHpEScyYpes
 チャプター1: https://youtu.be/hlOYiDwUQPw
 チャプター2: https://youtu.be/FRlGc-NS700
 チャプター3: https://youtu.be/beDMkvY16GU
 チャプター4: https://youtu.be/1EODszGhnoM
 チャプター5: https://youtu.be/4zSmO6RGha8
 

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2203/

2024年10月22日号 (通算24-30号)

WEB版HALだより「動画編」制作中!

2005年から始まったHAL農業賞。今年で20回目になります。農業賞を贈呈した受賞者、受賞企業はその後も活躍を続けています。

 そんな中から、今回は第2回HAL農業賞優秀賞を受賞した上士幌町の有限会社十勝しんむら牧場と第9回HAL農業賞優秀賞を受賞した本別町の前田農産食品 株式会社の「その後」を取材しています。



 第2回のHAL農業賞は2006年。そして第9回は2013年ですから、両社ともに受賞から10年以上も経過しています。その間、それぞれの会社がどのような成長を辿ったのか、新たな夢や目標はどんなものがあるのか。それを映像でまとめています。

十勝しんむら牧場の現在の姿を追いかけた動画は、間もなく公開。その予告編はここからご覧いただけます。
URL: https://www.youtube.com/watch?v=odL_gDPbs3k

そして、前田さんの現在の様子は夏の小麦収穫の刈り取り模様やポップコーンの収穫を行っている秋まで収録を行っています。



また、今回は特別編として新村さんと前田さんの対談も!  


お二人の対談前に、新村さんが前田さんのほ場を訪問。そして、前田さんが新村さんの牧場を訪問し、近況を情報交換。

その後、十勝しんむら牧場のクリームテラスで対談を行いました。対談の進行役はHAL農業賞アンバサダーでフリーアナウンサーの渡辺陽子。




十勝はもちろん、北海道を代表する先駆的農業者・経営者であるお二人のお話は、和気あいあいでありつつ、進行役が何度もひっくり返るほどの「本音トーク」が飛び出ました。
どんな対談になっているのか、気になりますね。
現在、鋭意編集中です。公開までもう少しお待ちください。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2186/

2024年10月15日号 (通算24-29号)

札幌の中でも「清田区」が熱い!

*今回の「WEB版HALだより」は、野菜ソムリエとして大活躍の吉川雅子さんにお願いしました。
なお、この文章は、筆者及び筆者の所属する団体の見解であり当財団の公式見解ではありません。

レポート:吉川 雅子

私は仲間と「札幌農業と歩む会」で活動しています。“札幌市民に札幌の農業をもっと知ってもらいたい”というのが活動の目的です。
各区を巡る産地ツアーを企画したり、顔の見える野菜で食事会を提供したり、マルシェを開催したり…。
10区の中で一番輝き、区民みんなで盛り上げていると感じたのが「清田区」でした。
地元を盛り上げる地元愛に溢れる人たちをご紹介します。

2020年に出版した『こんな近くに!札幌農業』。札幌の農業を紹介しています

「清田」の始まりと「清田区」の誕生

1869(明治2)年、明治政府は「開拓使」という役所を置くことを決め、北海道に移り住む人々を募集しました。1871年に、岩手県から44戸の移民団が月寒に入りました。その後、清田や真栄、北野の厚別川周辺の稲作と、平岡や里塚、有明の畑作が定着し、集落として成り立つようになりました。

1891年には厚別川に用水路が建設され、1921(大正10)年頃から平岡や里塚ではリンゴ栽培が始まり、厚別川の周辺には水田が広がり、酪農も畑作地帯で始まっていきました。
「清田」という地名は、1944(昭和19)年、字名改称の際、“美しい清らかな水田地帯”という意味で名付けられました。

1961年に豊平町と札幌市が合併。次第に都市化が進み、かつての農村地帯から住宅地へと姿を変えていきました。政令指定都市施行に伴い、1972年、清田出張所が開設され、人口の急増に伴い、1997年11月、豊平区から分区して「清田区」が誕生しました。

札幌の地産地消を牽引する「清田区」

30年以上も前から清田区で作り続けられている「ポーラスター」という美味しいホウレンソウがあります。昭和50年代、減反政策により米からの転作作物として作付けが開始。その後、東京などへ出荷を進めようと、“北”をイメージできる英語の「北極星」の「ポーラスター」と名付けられました。清田の冷涼な気候ときれいな水、長い栽培の歴史で培われた技術力により、葉肉が厚いので日もちがよく、甘みがあってえぐみが少ないのと人気が高い。
現在は15名ほどの生産者が面積約13000坪のハウス栽培で、5月中旬から11月中旬頃まで出荷しています。

「桑島農園」の桑島誠さんは、現在18棟のハウスでポーラスターを栽培しています。3日に1回播種し、播種して4週目で収穫します。収穫後は土壌の消毒などをしてまた播種。一つのハウスで2、3回転しています。

以前は西岡でトマトやキュウリ、タイナなどを栽培していましたが、父の代に清田に移ってからホウレンソウ(ポーラスター)一筋に。それを継いでいます。

このポーラスターは、清田区の学校給食でも使われています。きっかけは、札幌市の健康・栄養調査で、札幌市民は野菜摂取不足とわかったことから。そこでポーラスターをはじめ、もっと野菜を食べようと清田区の栄養教諭や学校栄養職員の働きかけで給食に使用、身近な教材として食指導を行ってきました。また、清田区役所の食堂でも、野菜中心の健康食メニューや、地元生産者の野菜を使ったメニューの提供などを行っています。

「札幌伝統やさい」の存在

野菜名に「札幌」と付く品目があるのをご存知ですか?
大きなキャベツの「札幌大球」、明治から作り続けられているタマネギ「札幌黄」、人気のエダマメ「サッポロミドリ」、生産量が少ない貴重なゴボウ「札幌白ゴボウ」、そして、ピリリと辛い「札幌大長ナンバン」。これら5種類を「JAさっぽろ」では「札幌伝統やさい」に指定し、栽培や普及を行っています。これらの多くは清田区で栽培されています。

有明の「川瀬農園」では、0.9haの畑で多品目野菜を栽培。その中には「札幌大長ナンバン」もあります。収穫は主に8~9月。赤くなると「札幌大長ナンバン」としては出荷できないので、緑色で大きくなってきたものを採ります。
この「札幌大長ナンバン」は、昨年から札幌グランドホテルの「南蛮味噌」にも使われています。

緑色が鮮やかな「札幌大長ナンバン」
今年も豊作が期待される「札幌大長ナンバン」
昨年から製造している札幌グランドホテルの「南蛮味噌」。今年も仕込み中

区民が盛り上がる「ふれあい区民まつり」

1998年に文化的ホールを備えた区民センターがリニューアルオープンし、8月22・23日に、第1回目の「清田ふれあい区民まつり」が開催されました。今年も7月に、25回目が開催されました。

2017年に区政20周年を記念して開催された「きよたマルシェ&きよフェス」は、清田区の魅力を楽しめる祭典として毎年9月に行われています(きよたマルシェは2014年から)。

今年も、絶好のイベント日和となった9月7日に開催

ほかにも、きよたスイーツを広く知ってもらうため、ロングランのスタンプラリーも開催しています(8/1~10/31まで)。

この「きよたマルシェ」を盛り立てているのが、2012年からシイタケを栽培している「清田しいたけファーム」の代表の嶋川正洋さんです。ファーム名に「清田」を入れて、清田を守り立てています。
「清田しいたけファーム」では、ミネラルたっぷりの地下水を使い、湿度60%のハウスの中でじっくりと熟成された肉厚のシイタケが育っています。こだわりの栽培は従来の方法と異なり、「抑制熟成連続発生システム」を採用することで、一年を通して品質のよい肉厚なシイタケを安定的に提供しています。

清田しいたけファームの嶋川さん

清田区では、どこの区よりも農業が盛んです。その農業をベースに、産業はもちろん、地域の活性化や清田区の老若男女の健康などさまざまな面でまとまりがよく、取材をすればするほどステキな区だと改めて思いました。

「清田しいたけファーム」の「清茸」とポーラスター
羊ケ丘通り沿いある「シャトレーヌ 清田店」の「ポーラスター」を使った、その名も「ポーラスター」というケーキ

プロフィール

吉川雅子(きっかわ まさこ)
マーケティングプランナー
日本野菜ソムリエ協会認定の野菜ソムリエ上級プロや青果物ブランディングマイスター、フードツーリズムマイスターなどの資格を持つ。

札幌市中央区で「アトリエまーくる」主宰し、料理教室や食のワークショップを開催し、原田知世・大泉洋主演の、2012年1月に公開された映画『しあわせのパン』では、フードスタイリストとして映画作りに参加し、北海道の農産物のPRを務める。

著書

『北海道チーズ工房めぐり』(北海道新聞出版センター)
『野菜ソムリエがおすすめする野菜のおいしいお店』(北海道新聞出版センター)
『野菜博士のおくりもの』(レシピと料理担当/中西出版)
『こんな近くに!札幌農業』(札幌農業と歩む会メンバーと共著/共同文化社)

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2170/

2024年10月8日号 (通算24-28号)

「農業科」授業に協力! 稲刈りをしました

WEB版HALだより6月25日号でお伝えした美唄市での地元小学生による田植え経験。あれから約4ヵ月を経て、ついに稲刈りの季節になりました。
https://www.hal.or.jp/column/1982/

美唄市の齋藤実さんの田んぼで稲刈りをしたのは、美唄市立東小学校と中央小学校の児童たち。取材に行った日は、中央小学校の児童44人が稲刈りに挑戦。初めての稲刈りと思いきや、中には幼稚園の体験学習で稲刈りの経験のある児童もいました。

体験田んぼとなった場所には、過去に小学校時代に稲作体験をしたことがある高校生や現在は地元農協に勤務する方も「先輩として」参加していました。

一部のお米はその後「はさがけ」をするので、麻紐でしっかりと縛り、軽トラに積み込み。お手伝いは、地元の経験豊富な方々。

まるでおじいちゃん、おばあちゃんと孫のように作業が進められています。なかには、昔取ったなんとかで、どんどんスピードアップする方も。齋藤さんは「この子たちが農業に就かなくても、例えば農業機械の会社に入ったり、農業関係の仕事に就いたり、あるいは地元に帰って来たときに『ここで田植え、稲刈りをしたんだよ』と経験が活きれば」と話していました。本業も忙しいなか、圃場を貸し出し、作業を見守るのはそうそう簡単なことではありません。でも、地域や地元の子供たちのために時間、場所、ノウハウを大人たちが出し合っている様子は、それだけで一つの成果だと思いました。

立派に実ったお米は「ななつぼし」。このあと乾燥させて、脱穀そして精米まで行います。家庭科の授業のなかで調理としてこのお米が使われるそうです。
また、冬には「しめ縄」にもなるとのこと。

美唄市の「農業科」授業は成功も失敗も含めたトータルとして“農業で学ぶ”ことを目ざし、総合的学習の中で行われています。

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2157/

2024年10月1日号(通算24-27号)

第19回HAL農業賞受賞者紹介動画完成!第2弾

第19回HAL農業賞を受賞した企業を紹介する動画が続々完成しています。先週に引き続き、第2弾で公開するのは、長沼町の桂農場です。

色とりどりの綺麗なラナンキュラスが並びます。この他にも、リンドウやスナップなどの花も育てています。

大きくて、立派なブロッコリーも次々と収穫されていきます。

また、農場のお花を自分で摘んで花束にする、花育体験も行っています。
詳しくは、本日公開のHAL財団公式YouTubeにてお楽しみください。

動画URL:

第19回HAL農業賞 優秀賞 桂農場の紹介動画(全編)
https://youtu.be/ce9fe9amof0

第19回HAL農業賞 優秀賞 桂農場の紹介動画(チャプター1)
https://youtu.be/TcnEMVE7DdY

第19回HAL農業賞 優秀賞 桂農場の紹介動画(チャプター2)
https://youtu.be/klyUa_I85VM

企画広報室 山記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2144/

2024年9月24日号 (通算24-26号)

第19回HAL農業賞受賞者紹介動画完成!

第19回HAL農業賞を受賞した企業を紹介する動画が続々完成しています。
まず、最初に公開するのは、長沼町の株式会社押谷ファームです。

太くてみずみずしいアスパラが力強く地面から生えています。


ムラサキアスパラとグリーンアスパラ、ともに立派です。

美味しい農作物はもちろんのこと、ファームを訪れると、素敵なガーデンも出迎えてくれます。
詳しくは、本日公開のHAL財団公式YouTubeにてお楽しみください。

動画URL:

第19回HAL農業賞 優秀賞 株式会社押谷ファームの紹介動画(全編)
https://youtu.be/zFQJ0coDdew

第19回HAL農業賞 優秀賞 株式会社押谷ファームの紹介動画(チャプター1)
https://youtu.be/uNBZEO_OtlM

第19回HAL農業賞 優秀賞 株式会社押谷ファームの紹介動画(チャプター2)
https://youtu.be/kpGhnGKviyE

企画広報室 山記

この記事のURLhttps://www.hal.or.jp/column/2124/

2024年9月17日号 (通算24-25号)

藤田一咲、北海道に、再び降臨?!

昨年秋の五島軒での撮影以来、2度目となる、カメラマン藤田一咲さんの登場です。
これぞ、一咲さん!という出で立ちで、帯広空港に現れました。

今回は、十勝の農家を回り、一咲さんのカメラを通して、それぞれの農家さんの取り組みやこだわりをリポートするということで、私、HAL農業賞アンバサダーの渡辺陽子もお供しました。撮影は、8月4日から6日にかけての3日間。真夏の暑さを覚悟していきましたが、曇り空に助けられ(写真を撮る一咲さんとしては、大変だったかも)、気温も25度前後で助かりました。

1日目は、こちら!
「新得そば」で有名な新得町の「はら農場」のそば畑です。
白い花が咲き、モンシロチョウやミツバチが忙しなく飛びまわり、ここは天国か?!というような雰囲気が漂っていました。


しかし!畑のすぐ横の林の木を見ると…

爪痕が生々しいですね。ちょっと怖かったです。そんな中、一咲さんは、時に、このように寝転がりながら、

時に、自分の撮影風景を動画に撮りながら、

様々な角度から、そば畑を撮影していました。


はら農場は、化学肥料や農薬、除草剤を使わないなど、こだわりをもって栽培をしているそうです。
さあ、一咲さんのカメラを通すと、どんな景色が見えるのでしょうか?
乞うご期待です!

それにしても、一咲さん、水色の長靴が似合っていますね。パリの雰囲気を感じるのは、私だけでしょうか(笑)。

「撮影2日目は、藤田一咲、本別に降臨!」

本別町の福田農場で、私たちを出迎えてくれたのは、この方!

代表の福田博明さん。
福田さんは、温厚なお人柄で、信念をもって真摯に農業に取り組んでいます。素人の私の質問にも、丁寧に答えてくださいました。

今回、まず、見せていただいたのは、「スペルト小麦」の畑。
皆さん、ご存じですか?

私は初めて、見たのですが、普通の小麦より、背が高く、ワイルドな姿をしていました。

一部は、身長177センチの福田さんの首あたりまで成長していましたよ。ワイルドでしょう!!

スペルト小麦は、古代小麦の一種で、小麦アレルギーを発症しにくく、栄養が豊富などの特徴があるそうです。
ちょうど、刈り取り作業をするということで、なんと!コンバインに乗せていただきました。

日本一大きなコンバインだそうで、目線が高いので、広がる小麦畑を一望できて、最高でしたよ。
一咲さんは、どんな写真を撮っていたのかな。出来上がりが楽しみです。

次に見せていただいたのは、牛の餌となるデントコーン畑。

福田さんのところのデントコーンは、茎が太くて、葉も厚みがある。ゆっくり成長させているから、栄養価の高いデントコーンになるとか。
だから、福田さんのところの牛は美味しくなるんですね。

福田農場での撮影は、広い畑を行ったり来たり。撮影が終わり、帰りの車の中で…
お疲れ様でした。

「撮影3日目も、藤田一咲、神業発動!?」

柵なしで、こんなに近くから、牛を見たのは初めてです!

ここは、上士幌町の十勝しんむら牧場です。
24時間オールシーズン放牧していて、牛たちは、朝晩2回の搾乳以外は、草を食んだりして、のんびりと過ごしています。

この子は、ジャージー牛の「じゃーこちゃん」

しんむら牧場のマスコット的存在だそうです。

私が牛たちと写真撮影を楽しんでいる間も黙々と写真を撮り続ける一咲さん。

一咲さんが撮影していると、不思議と牛たちが寄って来たりして、歓迎しているようにも見えました。最後には、どこに一咲さんがいるのかわからないくらいに、牛たちに馴染んでいましたよ。

こちらには、豚や馬もいます。
豚も一咲さんが好きみたい。興味津々に集まってきます。

馬もいて、豚と仲良く餌を食べていました。

なかなかない光景ですよね。
丸い背中としっぽが可愛い!ただそれだけの写真です。

やぎもいました!

やぎは、しんむら牧場の草刈り隊なんだそうです。雑草をきれいに取ってくれる働き者です。

そして、しんむら牧場の牛乳をいただきました!



濃厚だけど、後味がさっぱりとした美味しい牛乳でした。ご馳走様でした。

さて、牛乳の撮影をする一咲さん。
私が撮ると、こんな写真。


なんだか雑然とした、とりとめのない写真ですが、一咲さんが撮影したら、どうなのか?
その神業は、後日、アップされますので、お楽しみに!

さて、こちらでは、しんむら牧場で人気のミルクジャムとスコーンを撮影中。


HAL財団の山京さんも助手を務めます。

こちらはHAL財団の上野さんが、撮影している一咲さんを撮影しています。
撮影旅行中は、あちこちで、こういう状態でした。

最後の撮影は、十勝産小麦100%の美味しいパンが常時、およそ100種類も並ぶ、帯広の満寿屋商店の「麦音」

せっかくだから、撮影しようか!と、急遽、伺いました。
そんな突然の訪問にも、快く対応してくださったのが、この方!

天方慎治さん。
美味しいものを作る方に共通する、温厚で、素敵な笑顔の方です。

パンをかごに入れて、撮影準備。
素人の私が撮ると、こんな感じ。

さて、一咲さんにかかると、どうなるのでしょうか。
お楽しみに。

3日間の十勝撮影旅行は、これにて終了。
帰りには、タンチョウが、お見送りをしてくれました。

さあ、一咲さんの写真や動画も、近々、アップされる予定です。それまで、もう少し、お待ちくださいね。

今回、十勝で出会った皆さん、ありがとうございました。また、お会いしましょう!

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