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WEB版HALだより「テキスト版」

2023年5月23日号(通算23-5号)

~短期集中レポート~ “農業で学ぶ” 小学校における「農業科」教育の道を拓く挑戦(2)

磯 田 憲 一

 

現在の教育の場における子どもたちと農業との向き合い方をみると、北海道はもとより、全国的にも小学校では「農業体験」という形で広く、一般的に行われています。しかし、農業体験はあくまで“体験”の域にとどまるものです。成長期の基礎的な学びの重要性を踏まえると、「農業で学ぶ」取り組みを日常的な学習プログラムの中に組み込むことは、計り知れないほどの大きな意味を持っていると言えるでしょう。

(一般的な教科書)

(一般的な教科書)

現在、小学校の時間割の中に「農業科」を組み入れ、授業の中に位置付けている自治体は、2006年(平成18年)、内閣府から構造改革特区(教育特区)の認定を受けて「農業科」をスタートさせた福島県喜多方市のみです。構造改革特区認定は、その後全国展開に向けた対応のため、2008年(平成20年)に廃止され、喜多方市の「農業科」は、2009年(平成21年)から「総合的な学習の時間」の中で実施されています。

北海道美唄市は、その喜多方市の取り組みに学び、喜多方市教育委員会から指導主事を招くなどの学習を重ね、2010年(平成22年)に「美唄市農業体験副読本)を制作。2011年(平成23年)から「グリーンルネッサンス推進事業」として小学校における「農業体験学習」を実施してきました。

農業体験学習は、北海道でも広く一般的に行われていますが、農業体験の副読本を制作したのは、北海道の自治体としては美唄市が唯一であり、日本全体としても、農業に関わる副読本を持っている自治体は、喜多方市と美唄市のみと思われます。

(写真提供 美唄市教育委員会)

(写真提供 美唄市教育委員会)

美唄市は、北海道の中西部に位置し、かつて日本の石炭産業を支えた炭鉱都市の一つです。その炭住街にあった市立小学校の跡地に、1992年(平成4年)、美唄市が開設したのが芸術文化交流施設「アルテピアッツァ美唄」。「アルテ」は、地域の歴史や風土と彫刻が混じり合った公共空間ですが、開設から30年を迎えた2022年、管理運営を担っている認定NPO法人アルテピアッツァびばいは、美唄市との共同主催で、この唯一無二の美しい佇まいを持つ公共空間を美唄のアイデンティティ発信の場として活用していくことを目ざし、思い新たに「次なるステップへ」向かうためのキックオフセミナーを企画しました。

そのセミナーの記念講演をお願いしたのは、JT生命誌研究館(大阪府高槻市)名誉館長の中村桂子さんです。長く生命科学の世界を探求してきた中村桂子さんを「アルテピアッツァ美唄」のアートスペースにお迎えし、2022年8月、「生きものとしての人間のつながり」と題した講演会を開催しました。

後日、不思議な縁の繋がりを実感することになるのですが、この講演企画でお招きした中村桂子さんとの出会いが、農業をめぐる新たな物語の扉を開くことになったのです。

(第3号に続く)

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