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調査研究レポート

人工光を利用した野菜の育苗
財団法人 北海道農業企業化研究所
第一研究開発部 研究員 吉田 知明

北海道では人工光を利用した野菜の育苗に関しては、その分野の研究者を除いてはまだ知名度は低いと思われる。また、なぜ改めて、太陽光を使わずにエネルギーを消費して人工光を利用しなければならないのか、という意見もあると思う。今回は人工光育苗の簡単なしくみと実際の栽培データのごく一部について紹介し、まずは人工光育苗について知っていただこうと思う。

写真1 蛍光灯を使用した育苗の様子(M式水耕製)

《はじめに》

さんさんと降り注ぐ太陽の光は、われわれ生命の源である。
この太陽の光を使わずになぜあえて、エネルギーを消費し、人工光を使用して植物を栽培する必要があるのか疑問をもたれる方もいると思う。しかし、農業生産を考えたとき、とくに施設園芸で収益を上げるには、いかに生育環境をコントロールし、生育の安定と向上を行うかが大切である。大きな栽培空間の環境を制御することは難しいが、育苗においては、特定の閉鎖された栽培空間を用いれば、比較的容易に環境コントロールすることは可能である。近年、人工光を用いた野菜の育苗が注目され始めている。その利点の1つは、1年を通して一定品質の苗を計画的に生産できることである。そこで今回は、人工光を利用した野菜の育苗について簡単な紹介をしていく。

《人工光育苗のしくみ》

人工光育苗は単に光だけではなく、温度、湿度、二酸化炭素、風、肥料、潅水を総合的にコントロールすることにより、育苗期間の短縮化と周年を通じた一定品質の苗の提供を可能にする技術である。その環境制御を可能にするために、例えば、断熱されたコンテナのような、閉鎖空間を利用する。光源には蛍光灯を用いるが、この理由の1つとして、他の人工光光源に比べ、蛍光管自体の発熱が少なく、比較的植物に近接して設置ができることがあげられる。これにより、育苗ベンチを小容量の空間で多段式にできるという利点がある。つまり小スペースでたくさんの苗の生産を可能にするということである。人工光育苗に用いられる蛍光灯にはいくつかの種類があるが、例えば、3波長型蛍光灯の光スペクトル分布は、光合成に有効な400〜700nmの波長域の光が多い。実際の葉菜、果菜など正常な生育をするには、100〜300μmol・m-2・s-1(光合成に有効な波長域の光の量を表す単位)程度の光の量が必要で、これは蛍光灯から植物までの距離が15〜30cm、40Wの蛍光灯が4〜6本程度で達成される明るさである。

《人工光育苗の実際》

みなさんは人工光で育苗された植物の生育にどのようなイメージを持たれるだろうか?実際にどのような苗が生産されるのか、いくつかの例をあげて説明したい。写真2は人工光育苗装置(苗テラス、太洋興業製)を用い、育成した養液栽培のサラダ菜苗の様子だが、11月の低日照の時期では太陽光育苗に比較して、コンパクトで徒長していない苗の生産が可能である。このとき、生重量、葉数に関しては、人工光育苗の方が多かった(図1)。この苗を太陽光温室に定植した後の生育を図2に示す。また中玉トマト(品種:カンパリ)を人工光で育苗した場合の生育を図3、図4に示す。播種は7月5日に行い、栽培方法は培地にピートモスを使用する養液栽培とした。このときの試験では、同じ生育期間では、人工光育苗区が太陽光育苗区に比較して、葉数の進み方、開花期が早まる結果となった。

写真2 光源を変えて育成させたサラダ菜苗
(閉鎖型育苗装置「苗テラス」にて育苗)
 
図1 播種後26日目の
サラダ菜の生育
 
図2 播種後47日までの
サラダ菜の生育
 
 
写真3 人工育苗した中玉トマト(カンパリ)の苗
(閉鎖型育苗装置「苗テラス」にて育苗)
 
図3 中玉トマトの葉数の変化
 
図4 中玉トマトの開花時期
 

《これからの取り組み》

私たちの研究所では人工光育苗の実用化に対する検証は始まったばかりであり、実践的な現場での実証データは、まだ不足している。今後、人工光育苗について知っていただき、北海道にふさわしい人工光苗の利活用について検討されるためにも実証試験を重ねていきたいと考えている。

平成19年2月1日号『農家の友』690号掲載
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