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調査研究レポート

企業化へのステップ
第12回「企業化へのステップとは(まとめ2・最終回)
原点は誰もが認める信頼と約束
財団法人 北海道農業企業化研究所
企画・業務部門 企画担当部長 上野貴之

《社会環境の変化に対応する経営を》

いよいよ最終回である。企業化へのステップと題しながらも、具体的なステップについてはほとんど触れることはなかった。しかし、形式的に企業化=法人化するのであれば、それらについての詳しい解説書はたくさんあり、こうすれば企業化が成功するという眉唾な読み物は意味がないのである。
今、農業という産業を取り巻く環境は数年前には考えられないほど変化している。収穫物を見ていれば良いという時代ではない。多くの外的要因が農業経営を左右するのである。
例えば、環境問題と言っても、地球温暖化もあれば農薬の問題、ビニールハウスに関わる産業廃棄物と数えればきりが無い。後継者問題や新規就業という雇用・労働の問題、WTOは貿易の問題、企業の農業参入は経済問題、食育は教育問題、安全・安心は消費問題と、農業分野ほど新聞を隅から隅まで読まなくてはいけない仕事はないのではと思ってしまう。

農業は天候に左右される産業という印象が強いが、実は政策やトレンドといった社会環境に非常に影響される産業なのである。しかしながら、多くの農業関係者が栽培にはプロ意識を持ちながら、未だに社会環境には「言われたまま」の意識であることが残念でならない。

今回、企業化へのステップという連載を引き受けた大きな理由はそこにある。力強く産業としての農業を進めていくためには、経営者としてのリーダーシップと責任が必要である。そのことを多くの方に意識して欲しかったからである。そして、それを実践していく経営手法の一つが「企業化」ということだと考えている。もっとも、筆者の筆力ではそこまで至らなかったことを大いに反省している。

《アクシデントを回避する収入確保の方法》

ところで、この原稿を執筆している時にも、オーストラリアが史上最悪の旱魃に見舞われているというニュースが入ってきた。小麦の価格が高騰すると伝える。一方では、日本国内では、ピーマンが生産過剰で廃棄になるという。このように天候の影響は非常に大きな打撃となる。
しかし、このような回避できない打撃があっても、収入を確保する方法を考えなくてはいけないだろう。生産にのみ収入基盤を置いていては壊滅状態である。だからこそ、収入源を加工・流通・販売という、農業を出発点にした事業で確保する必要がある。
天候や病害虫といった自然の影響に対しては、技術や設備などで対応してきた。しかし、それはいわば対処療法である。総合的に対応するためには、人間でいうと予防や健康づくりなどに相当するものが必要なのである。それが、企業的経営では経営計画や経営情報であろう。

《総合力が必要に》

北海道内の多くの地域で、これからの農業経営をどう進めていくのか、そんなテーマで勉強会が行われている。筆者もこの連載がきっかけとなり、参加する機会が増えた。
個々の農家が抱える問題はそれぞれ違い、また課題が一つだけということはない。後継者をどうするか、収益増をどのようにすれば成功するか、加工をやってみたいがどうしたらよいか。そんな方向性を探るために意見交換をし、熱心に議論を重ねる。ただ単に人の意見を聞くだけではなく、自分自身のポジションを見極める上でもこのような場は重要である。
また、できれば農業関係だけではなく、他の産業との意見交換や議論を行ってみるのも効果的だろう。農業とひとくくりでいっても、どのような経営方針を立てるのかは、それぞれの持つ経営資源によって違う。ヒントは同じ産業だけではなく、同様の経営資源を持つ他の産業からも見つかるだろう。
今までの農業経営は、農作物を中心にとらえられることが多かったのではないか。しかし、今必要なのは複数の視点から経営を見るという総合力だろう。その視点は、作物・収益・将来性と多岐にわたる。視点の重要度はそれぞれのスタンスによって違うのである。横並び意識をやめ、自分の経営スタンスを総合的に判断し、事業展開を行っていかなくてはいけない。一つの判断材料で経営の方向性を決めるのは危険である。多くの情報と判断材料で経営を方向付ける、そんな総合力が必要なのである。

《形式的な企業化では目標は達成できない》

企業化のステップと題して連載してきたが、いま一度企業化の意味を考えてほしい。
ある時期は税務上の優位性から法人化を進めた時期があったようだ。しかし、企業化の目的はそれだけではない。今ではそれだけのために企業化・法人化するところはないだろう。
何のために企業化するのか。何度も記したが、自身の現状把握・現状分析、そして、目標を定め、どのようにしたらその目標に達成するのかを考えることが重要である。その目的・目標をより明確にすることが必要だ。企業化は目標を達成するための経営的手法の一つである。形式的に企業化・法人化することで目標を達成できるものではないし、課題が解決するものではない。

この原稿だけでは伝わらなかった多くのことがあり、また読者の皆さんも疑問や具体的な課題をお持ちだろう。
HAL財団では企業化を進めるために今までの原稿に記したことを具体的な事業として行っている。個々の農家では対応が難しいデザインやパッケージ、Eコマースといった戦略的に優位になる事項も実証研究している。お時間があればHAL財団のホームページをご覧いただきたい。

今回まで拙文にお付き合いをいただいたことに感謝申し上げる。

平成19年1月1日号『月刊ニューカントリー』634号掲載
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