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調査研究レポート

北海道の施設園芸どう変わる
「克冬制夏」を大きな課題とし、施設園芸の位置付けが必要
財団法人 北海道農業企業化研究所
主任研究員 志賀義彦

日本の施設園芸は促成栽培や抑制栽培など季節外れ栽培として、季節の先取りを珍重する文化と潤沢で安価な原油供給に支えられ、温暖地域を中心に発展してきた。近年、原油価格の高騰するなか、韓国や中国からの施設の花・野菜を中心とした輸入圧力も高まり、施設園芸に対する見直し機運も出てきている。本州産地ではこうした向い風をひとつの契機として「スーパーホルト・プロジェクト」の立ち上げなど、技術を高度化・再構築することで活路を切り開こうという積極的な取り組みが進められている。
本道の施設園芸も本州産地を後追いする形で発展し、夏場を中心に施設を利用した花・野菜の栽培が定着してきた。いくつかの周年利用型施設も稼動している。一方で、本道は土地利用型農業の展開が可能であり、かつ冬が長く厳しいことから施設園芸の不適地域といった見方もあり、暖房コストの上昇が続くなかで施設園芸の後退も懸念される。
筆者の施設園芸に対する関わりは少なく、情報の蓄積も乏しいが、本誌編集子に与えていただいた折角の機会、当財団の2、3の取り組みの紹介に併せて本道の施設園芸に対する私見を述べさせていただきたい。

《施設園芸研究の歩み》

大半は施設利用し、夏を中心とする花・野菜・果樹の安定生産・高品質生産の取組みである。1965年頃より、道南農業試験場や札幌市で花・野菜の導入をねらいとした品種・栽培試験が始められた。1985年以降は中央農業試験場を中心に移出向けの花・野菜、果樹では欧州系ブドウの品種・栽培技術の検討がされた。1996年以降は花・野菜技術センターを主体に花・野菜の検討が進められている。
冬期の施設利用については、道南農業試験場で1983年に野菜の栽培試験から施設の保温技術、地熱利用体系などが明らかにされ、1999年にはニラの加温栽培が提案された。北海道農業研究センターで2005年、ホーレンソウの寒締め栽培が提案されている。
施設の周年利用では、1988年以降、中央農業試験場、1996年以降は花・野菜技術センターで四季咲き性のアルストロメリアの品種および栽培法に係る情報が提供されている。また、2005年に球根類のコンテナ栽培が提案されている。
施設栽培の土壌管理・窒素施肥法については、1985年以降、道南農業試験場や中央農業試験場で検討され、2001年以降、花・野菜技術センターや北海道農業研究センターも加わり養液土耕栽培について検討された。
施設の開発・改良については、1980年代以降、北海道農業試験場や中央農業試験場で温風型ソーラーシステム、籾殻熱風発生装置利用による寒地グリーンハウスシステム、ヒートポンプの実用性などの検討が進められた。

《克冬制夏を目指した取り組み》

当財団は延べ面積約8,900uの植物工場を研究開発用施設として使用している。当施設は1997年、浦臼町に設立された農業生産法人神内ファーム21が、その基本コンセプト「克冬制夏(冬を克服し夏を制する)」<写真1>を実現するための実験施設として2001年に竣工したものを当財団は2003年の設立時より賃借している。

1)低コスト簡易養液栽培施設
中心となる施設は1室約760uの太陽光温室<写真2>であり、サラダナ・サンチュなどの生産・販売の実証試験を継続している。高温期や低温寡日照時の生育障害・生理障害等に試行錯誤しながらそれぞれ10a当たり1千万円を超える売り上げを実現している。経費は電気・重油代が約370万円、生産資材・梱包資材・消耗品等が約280万円で計650万円であるが、施設経費や施設の償却費が算定できる形になっていないことから、本年度より、低コストの簡易施設<写真3>を設置して、養液栽培のモデル化を目指している。
施設の設置経費については現況の生産性からハウスおよび水耕装置を含めて1千万円を設定した。7年償却で年償却費150万円弱となる。検討途上であり、経費の算定ができていないが、ハウス設備で700万円、水耕関連設備で400万円程度が計上されており、設備費1千万円のハードルはかなり厳しいと思われる。また、今夏はとくに高温に経過したこともあるが、環境制御、養液管理等に十分な対応できずサラダナ等の製品率も大きく低下した。引き続き、施設および管理経費の低コスト化、秋および冬期間の管理マニュアルの作成に向けた試験を継続し、情報の蓄積を図りたい。

2)トマトの周年栽培技術
04年度、350uの有機培地耕設備を活用して中玉トマトの長期どり栽培に挑戦した。品種は「カンパリ」、8月定植、10月収穫開始、12月までは概ね順調に推移したが、以降は生育が軟弱徒長、果実は小球化、収穫量も低下し、2月で栽培を中止した。05年度より、4月・8月・12月定植の年3作栽培を試行している。10a当り収量は、1作期5.3t、2作期2.6t、3作期1.2tと作期を追う毎に極端に低下している。光環境など環境条件の低下に栽培管理や養液管理の未熟さが加わった結果と判断しているが、06年度も引き続き年3作栽培試験を実施している。

3)軟白野菜の冬季生産技術
積雪地域で施設の周年利用を考えたとき、光環境のハンディが非常に大きい。そこで、ホワイトアスパラガス・チコリー・黄ニラ等を冬に生産する。株の養成は夏、圃場と施設を連携した生産システムの組立てをねらいとした試験を実施している。夏にアスパラガス1sの根株を10a当たり5千株養成し、冬に施設内延べ面積200uでホワイトアスパラガス500sを生産する。05年度の試験では、9pポット苗6月定植で11月に819gの根株が得られた。12月から800gの根株を20℃の施設内に伏せ込み、2週間後から4週の間に70gのホワイトアスパラガスを収穫した。当初の想定とズレが生じているが、06年度は試験規模を拡大して継続している。

《北海道でも具体的目標持ったプロジェクト立ち上げを》

施設園芸の今後の展開はその位置づけにかかっている。農業・産業・地域経済の中での位置づけが重要であろう。切り花・鉢花、トマト・メロン・ホウレンソウなどの大半が施設栽培となっているが、施設は位置づけが「補助的」であり、その開発・改良、低コスト化や省エネ対策が大きな課題とならなかった。本道では酪農・畑作などの大作目、タマネギ・ニンジンなどの露地野菜のなかで施設園芸の比重が相対的に小さかったことにも起因すると思われる。全国の約4分の1の耕地面積を持ち、農業産出額でも全国の12%を占めているが、耕地面積の減少、農家戸数の減少が続いている。好調を維持してきた花・野菜にも陰りが見える。「克冬制夏」を本道の大きな課題とし、その具体的な営為のひとつとして施設園芸の位置づけが必要であろう。わが国の施設栽培は季節外れの補助的栽培として発展してきたことから寒地は不適地としての評価が下され、われわれもその評価を受け入れてきた。しかしながら、寒地こそ施設が必要なのだ。改めて施設栽培がオランダなど本道よりはるか高緯度地域で発達してきたことを見よう。
本道の施設は周年利用施設である。周年利用を前提で本道に適応した技術開発を図る。必要な技術開発は多岐に亘るが、優先すべきは補光技術であろう。とくに本道秋冬期の寡日照は花・野菜の夏秋期栽培でも大きな制限要因となっている。冬の温度確保・省エネ対策、夏の施設管理・高温対策、寒地向け低コスト施設、夏期・冬期の養液管理など課題は山積みである。「スーパーホルト・プロジェクト」では具体的な技術開発例として、トマト高収量低段周年栽培50t/10aどりが提唱されている。本道でも具体的な目標を持ったプロジェクトの立上げを検討したい。
施設の冬を含めた利用として、当財団では施設を利用した軟白栽培にアプローチしているが、こうした取り組みのほか、園芸療法・福祉、観光との結びつき、条件の許すところではきのこ栽培、地鶏や銘柄鶏の養鶏、陸上養殖なども検討の視野にいれよう。

《施設園芸の必要性・問題意識共有が重要》

繰り返しになるが、寒地、北海道で施設園芸の必要性・重要性を位置づけ、その問題意識を如何に多くの人が共有できるかに懸かっている。栽培、品種、環境制御、養液管理、施設の低コスト化、省エネ対策、流通、経営など、技術開発には多くの分野の協力が欠かせない。それだけ技術開発で蓄積された情報の波及効果も大きいものになろう。
当財団で細々とした取り組みを進めている。明日の施設園芸王国北海道を夢見、この場を借りて情報提供者、協力者、共同研究者を募りたい。

平成18年11月1日号『月刊ニューカントリー』632号掲載
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