広報

調査研究レポート

企業化へのステップ
第10回 重要視される責任
原点は誰もが認める信頼と約束
財団法人 北海道農業企業化研究所
企画・業務部門 企画担当部長 上野貴之

充実感・満足感のある仕事は肉体的な疲れも吹き飛ぶ。あなたはどのような時に充実感や満足感を覚えるだろうか。
好天に恵まれ、豊作だった時。直売所でお客様から「美味しいね」と声をかけられた時。さまざまな場面で充実感があるだろう。ところで、「責任を果たした」という充実感はあるのだろうか。
責任などという表現は、普段の会話ではなかなか使わないのかもしれない。どちらかというと、厳しい・きついニュアンスを持つ言葉だ。
ところが、今、この「責任」ということが重要視されてきている。「俺は俺の責任で栽培しているんだ」では済まされない時代になってきたのである。責任は自分自身だけの問題ではなく、利害関係者に対して生じるものである。そして、この利害関係者の考え方も変わってきている。今回は、企業にとっての責任というテーマで記す。

《作物に対しての責任》

製造物責任法という法律がある。製造物の欠陥がもとで他人の生命や身体、財産を侵害したときに、生じた損害を賠償することを定めた法律である。ここでいう、製造物は「製造又は加工された動産」と定義されており、野菜などはその対象にはなっていない。しかし、この法律が適用されないからと言って無関心でいいのだろうか。
残留農薬に対しても、今年からポジティブリストが適用され、栽培農家ではその対策に今までとは違った苦労を感じているだろう。しかし、いつまでも「大変だ」と言っていても仕方がないのである。今、消費者が求めているのは、単に言葉を羅列した「安全」「安心」ではないのだ。裏づけのある「安全」「安心」である。製造物責任法が適用されないからと言って、責任がないわけでは決してないのである。栽培方法、使用農薬、使用肥料など、責任を持った仕事をしなくてはいけない。

《社会的責任》

ここ数年、企業の社会的責任(英語の頭文字をとってCSRと表現することが多い)ということが話題になっている。現に、多くの企業ではその専門の部署を設置したり、社員研修を行ったりしている。
企業の社会的責任は、時代とともに、あるいは対象(ステークホルダー)によって、そのあり方は変わってくる。ただ、確かにいえることは、従来、「収益を上げ」「税金を納め」「雇用を創出する」ことが企業としての責任だったものが、「誠実な顧客対応」や「環境への配慮」「社会貢献活動」などさまざまな領域に広がってきているのである。単に「法律を守っている」では企業としての責任を果たしているとは言えなくなってきたのである。
例えれば、どんなに「美味しい」「安全な」「安心できる」農作物を作っても、廃棄物を不法投棄したり(これは違法行為だが)、顧客対応を軽んじていては、「企業としては失格」の時代になってきたのである。
すでに法人化になっている方も、これから企業的経営を目指そうとしている方も、現代の企業活動は、単に営利追及ではないことを十分に理解し、より多くのものが、より多くの人から求められるようになっていることを認識しなくてはいけない。
ステークホルダーと表される「利害関係者」には、購入する消費者はもちろん、流通を行う事業者、日々の生産資材を納入する企業、金融機関、あるいは近隣の方々なども含まれる。そうした、多くのステークホルダーに対して、責任をもった仕事をするということが求められるのである。
難しく考えると萎縮してしまいそうだが、日本には古くから近江商人の「三方よし」という言葉がある。「売ってよし」「買ってよし」「世間よし」。
取引は当事者だけが満足するものではなく、世間のためにもならなければならないということだ。そう考えると、そんなに無理難題ではないのではなかろうか。

《難しいことではない》

信頼、約束。誰もが大切なことだと認めるだろう。責任というと、責め立てられるかのようなイメージがあるが、決してそうではない。信頼を得、約束を守り、そして日ごろから誇りを持って仕事をする。個人では当たり前のことが、企業という集団になっても、全く同じなのである。その当たり前のことが、個人だけではなく、企業体という法人にも強く求められるようになってきたのである。

《相互に応える》

偽装表示問題は跡を絶たない。今までの多くの事件は、食品加工事業者や販売事業者が起こしたものだった。そこには、消費者への責任もなければ、生産者への責任もない。これらの事件の反省は活かされているのだろうか。生産事業者(農業者)は、単に出荷するだけではなく、最終製品・最終商品まで目を光らせる必要があるだろう。それをないがしろにしてはいけない。ただし、そこまで行うことは現実的には不可能である。そこで必要なのが、「信頼」であり「約束」ではないだろうか。
日本経団連の「企業行動憲章」(2002年10月)では、第1条で「社会的に有用な財・サービスを安全性に十分配慮して開発・提供、消費者・ユーザーの信頼を獲得」と明記している。農業分野でもこれは変わらないのである。
消費者の信頼に応える。販売者に信頼して出荷する。それを互いが約束する。それぞれが、相互の信頼に責任を持つ。ここが当たり前のことだが、社会的責任の原点であろう。

次回は、「まとめ1」と題し、今までのまとめを記す。

平成18年11月1日号『月刊ニューカントリー』632号掲載
▲ページ上部へ
Copyright (C) 2005 Hokkaido Agricultural Laboratory for Business Development