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調査研究レポート

企業化へのステップ
第9回 顧客重視
商品として問われる満足度
財団法人 北海道農業企業化研究所
企画・業務部門 企画担当部長 上野貴之

《誰が買ってくれるのか》

丹精こめて作った農作物。品質、味、どれをとっても上出来。しかし、農作物は収穫した瞬間から「商品」へと変わる。
出荷、選別も箱詰めも専門事業者の手に任せている農業者が多い。確かに、効率性、ロットの問題、産地表示などさまざまなメリットがある。しかし、デメリットを考えたことがあるだろうか。
共同出荷、共同選別は量を重視したやり方だったのではなかろうか。
ところが、今の消費者は品質や様々な価値を求める。これらの品質や価値は、大きさや形の良し悪しだけでは分からない。今までの出荷では、規格外品になっていた作物も、消費者から見れば価値あるものと評価されることもあるだろう。
コスト面、効率性、安定性といった観点から共同集荷、共同出荷を行うのと同様に、収益面や顧客満足度という観点で作物の出荷や販売を考える必要がある。
農作物は、生食、調理、加工とさまざまな用途に使うことができる。近年では家庭の消費者が果物を剥いて食べるのではなく、すでにカットされた物を購入することさえある。
生産者は、「そんな食べ方は美味しくない」と思うかもしれないが、実際、都市部では包丁のない家庭が珍しくないという。そのような消費者や加工事業者の変化にどのように対応していくのかを真剣に考える必要があるだろう。生産物を大きさを揃えて出荷するだけでは市場の変化に対応しきれないのである。
また、生産者が誇る技術や品質をどのようにアピールするのかも重要になってくる。共同出荷の避けられない限界がここにある。自分の作った農作物の強みはどこか?ほかと比較してどこが素晴らしいのか?それが明確なのに、共同出荷だとその強みを打ち出すことはできない。共同集荷、共同出荷のメリットに消されてしまった利点があることも、もう一度考えてみる必要がある。

生産者は消費者の需要に敏感であることは大事なことだが、消費者行動にばかり踊らされていてはいけない。短期的なブームに乗って、生産を増やしたり、作付けを始めたりするのは非常にリスクの大きなことである。
「顧客重視」とは、決して消費者や加工事業者の言いなりになることではない。生産者の側から、消費者に品質や良さを訴えていく場面も必要である。その仕組みは今のままでは非常に難しいのではないだろうか。

《商品に価値を》

生産者と消費者は決して対峙する関係ではない。良いものを作り、適正な価格で購入する。品質だけではなく、利便性やブランドといった価値も左右するかもしれない。それらを含めた価値を生産者が生み出し・作り出し、消費者が満足することが肝心だ。
今は、その価値観が非常に広いものになっている。生産者の生活環境だけでは分からない価値観もあるだろう。こういった情報収集がやがて付加価値へと変化していくのだろう。

《メロン6個で千円は安いのか?》

連載第5回目にもこの話は書いたのだが、筆者はこの出来事が今の生産者と消費者のギャップの象徴でもあるように思えるので、今回も記す。7月から8月にかけて、北海道内の農村地帯では道端に農家の直売所がたくさんできる。採れたての野菜や果物。新鮮さが売り物だ。ドライブ途中に立ち寄る観光客も多い。閉店間際に寄るとこんなことがあった。「メロン6個。千円でいいよ」と。
6個を食べきれる家庭なら良いが、世の中には二人暮らしもいる。その上、デザートがメロンだけとは限らない。ケーキやシュークリームといった菓子もある。いくら旬だからといって、メロンだけをたくさん食べることはないのではなかろうか。
実際、ここ数年の菓子類の大きさが小ぶりになっているのは、何種類かを食べる「盛り合わせ」や「カロリーを気にする」消費者に合わせてのことである。

《消費者を見て、消費を作り出す》

一方、農業生産の現場ではそのような取組みは行われてきただろうか。消費者動向にあわせた作付があるのだろうか。減反という声が聞こえそうだが、あれは果たして消費にあわせた作付といえるのだろうか。疑問である。
消費が落ち込む様々な産品があるなか、いまだに消費拡大だけを訴えている気がする。過去の消費水準に戻すのは、生活そのものも過去に戻ることを意味するのではないだろうか。
前段で、菓子が小ぶりになったり、低カロリーの商品が販売されていることを記した。
これは単純ではあるが、消費者を見て消費を作り出す努力である。

《伝統と革新》

この言葉は、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で老舗料亭の三代目が話していた言葉だ。伝統の味を守りとおすことが老舗の誇りと考えていたが、客足が遠のく。一時は倒産の危機まで。その時に目を向けたのがやはりお客様。従来の和食は日本酒を飲むのが一般的だった。それが、ワインやシャンパンを注文するお客様が増えているという。そうなるとおのずと料理の味付けも変わってくるというのだ。
多くの企業は、順風満帆で業績を伸ばしてきたわけではない。大小さまざまなトラブルや業績不振にも見舞われる。
そんな時こそ、顧客重視の工夫が必要なのである。

次回は、「重要視される責任」と題し、社会的責任について記す予定である。

平成18年10月1日号『月刊ニューカントリー』631号掲載
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