広報

北海道農業・元気プロジェクト

2008/9/3

HAL認証農産物「CO2排出量」削減の取り組み
〜日本のCO2排出量の現状と私たちの課題〜

CO2排出量削減へのアプローチ

7月に開催された洞爺湖サミットの最重要課題には「温室効果ガス(CO2)削減対策」が掲げられ、この問題に世界中の関心が集まりました。
これに先立ち、当財団では「HAL認証農産物協議会」とともに、環境保全とCO2排出量の削減に配慮した農産物の栽培基準作りに着手しています。
ここでは農業に関連するCO2排出量計算の概要と、モデル作りの進捗について紹介します。

温室効果ガスの種類

  京都議定書で排出量削減の対象とされた温室効果ガスは、二酸化炭素(CO 2)、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロン類3種など計6種類です。排出量が最大であるCO2の地球温暖化係数(温室効果の程度・大きさ)を1とし、他の5種は重量に地球温暖化係数を乗じてCO2に換算した数値が「CO2」排出量となります。

各分野に含まれる農業関係の温室効果ガスの排出(表1)

 農業分野における排出量は2千7百トン(CO2換算)。総排出量の2.0%です。その52%が家畜関連で、家畜の消化管内醗酵でCH4、家畜の排せつ物関係でCH4とN2Oが排出されています。水田からのCH4排出が21%、窒素肥料の使用や作物残渣すき込みに伴うN2Oの排出が13%、その他農地土壌からのN2O排出が14%となっています。
 農業の生産段階で消費される燃料や電力消費に伴う排出量は「エネルギー」の産業部門として、農林業のCO2排出量8百6十万トン、総排出量の0.6%と計上されています。また、農業資材の製造・輸送に要したCO2排出量は、同じく「エネルギー」の産業部門および運輸部門に含まれます。
 作物の生産段階では、農地の管理法の違いによる土壌中の炭素の増減に伴うCO2の排出・吸収量は非常に大きいことが知られています。分野としては「土地利用、土地利用の変化及び林業」に含まれる予定ですが、現在の段階では正しい数値のためのデータを蓄積中とのことです。

表1 日本の分野別温室効果ガス排出量または吸収量とその増減
(環境省、2008)

  分 野 1990
(基準年)
2005 増減比
[05/90]
構成比
(2005)
1 エネルギー(燃料の消費) 1,070 1,212 113% 89.1% (100%)
  うち産業部門(非製造業・製造業) 484 459 95% 33.7% 38%
  うち農林業 7 9 124% 0.6% 1%
  うち運輸部門(旅客・貨物) 217 257 118% 18.9% 21%
  うち民生部門(業務・家庭その他) 292 412 141% 30.3% 34%
2 工業プロセス 71 72 102% 5.3% -
3 溶剤及びその他製品の使用 0.3 0.3 100% 0.02% -
4 農業 32 27 85% 2.0% (100%)
  家畜の消化管内醗酵・排せつ物管理 16 14 87% 1.0% 52%
  稲作(水田) 7 6 82% 0.4% 21%
  肥料使用・作物残さ鋤込み - 4 - 0.3% 13%
  農地土壌・その他 - 4 - 0.3% 14%
5 土地利用、土地利用変化及び林業 -92 -96 104% -7.1% -
6 廃棄物 37 48 129% 3.5% -
合計 土地利用、土地利用変化及び
林業分野を含む
1,118 1,264 113% 92.9% -
  土地利用、土地利用変化及び
林業分野を含まず
1,210 1,360 112% (100%) -
備考: 環境省地球環境局,2008,日本国温室効果ガスインベントリー報告書より作表。マイナス(赤字)は吸収量。

畑作物における温室効果ガスの排出または吸収 〜秋まき小麦を例として〜(表2)

 北海道農業研究センター寒地温暖化チームの古賀氏らが、十勝地域の畑作農業を対象として行った先駆的な研究の中から、「A/プラウ耕を行う一般的な栽培体系」と「B/プラウ耕を省略、整地を一回のみ行う簡易耕体系」を比較したものを、秋まき小麦を例に紹介します。温室効果ガスの排出・吸収過程は、大きくは化石燃料消費プロセスと土壌プロセスに分けらます。

<化石燃料消費プロセス>
Aでは、トラクター作業で35、生産資材や収穫物の運搬で2、収穫物の乾燥で46、計83の排出量が算出されています。Bではトラクター作業に係るCO2排出量の減少が大きく、燃料消費に由来するCO2排出量は70と85%に減少しました。
農業生産資材の製造・輸送段階でも化石燃料が消費され、CO2が排出されています。「産業連関表」を適用して算出した結果、Aでは化学肥料で41、農薬で16、農業機械で23、計80のCO2排出量が推計され、Bでは除草剤に係る排出量が増加し、資材消費に由来するCO2排出量は102%と微増しました。

<土壌プロセス>
AのCO2発生量は491であったのに対して、Bでは381、78%と大きく減少しました。
農地への窒素を含む資材の投入により土壌表面から直接N2O が発生しますが、直接N2O発生量はAで26と推計され、Bでは94%と減少しました。
一方、化学肥料や有機質肥料、堆きゅう肥として施用される窒素量の30%が作物に未利用のまま溶脱・流出しており、間接N2O発生量として推計されています。秋まき小麦の間接N2O発生量は19となっています。
常時湛水で嫌気的条件となる水田では多くのCH4を発生しますが、畑土壌のような好気的土壌では、土壌表面に生息するCH4酸化細菌の働きにより、大気中のCH4が吸収(酸化)されます。長期耕起試験圃場における測定結果より、CH4の吸収量はAでは2と比較的小さな値でしたが、Bで5.7と増加しました。

表2 作物生産における温室効果ガスの排出または吸収量
-秋まき小麦- (古賀伸久ら、2006)




ガスの種別と
排出 (発生)
または吸収場所
排出(発生)
または吸収過程
排出または吸収量
(kgCO2/10a/年)
一般耕 同左
寄与率
簡易耕 同左
増減率









CO2
排出
圃場内 トラクタ作業
(耕起・播種・薬剤散布等)
34.5 5.0% 22.0 64%
圃場内運搬
(生産資材・収穫物)
1.9 0.3% 2.0 105%
他の燃料消費作業
(乾燥機・暖房機等)
46.2 6.6% 46.2 100%
小計 82.6 11.9% 70.2 85%
圃場外
(資材消費由来)
化学肥料(製造・輸送) 41.4 5.9% 41.4 100%
農薬(製造・輸送) 15.6 2.2% 17.3 111%
農業機械(製造・輸送) 23.0 3.3% 23.0 100%
小計 80.0 11.5% 81.7 102%
162.6 23.3% 151.9 93%





CO2の発生
または吸収
土壌炭素蓄積量の変化
(増減)
491.0 70.5% 381.0 78%
N2Oの
発生
直接発生 窒素施肥による
土壌表面からの発生
26.1 3.7% 24.6 94%
間接発生 施肥に由来する
硝酸態窒素の溶脱・流出
19.0 2.7% 19.0 100%
CH4
発生・
吸収
発生(水田) 嫌気性条件下、
微生物の働きによる発生
-2.0 -0.3% -5.7 285%
吸収(畑地) CH4酸化菌による
大気中CH4の酸化分解
534.1 76.7% 418.9 78%
総計 696.7 (100%) 570.8 82%
備考:古賀伸久・鶴田治雄,2006,北海道の畑作農業から発生する温室効果ガスのライフサイクルインベントリー分析,農業および園芸81巻10号より作表。マイナス(赤字)は吸収量。

CO2削減技術の組み立てに向けて

 まず、対照となる慣行栽培のCO2排出量を算出しなければなりません。化石燃料消費プロセスにおけるCO2排出量は栽培管理法、作業体系、生産資材等の正確な把握から算出、推計ができます。土壌プロセスにおけるN2Oの発生量は窒素投入量から推計できますが、大きな比重を占める土壌炭素の蓄積量に基づくCO2の発生または吸収については、簡便な測定方法や有効な推計方法がないことから研究者の早急なモデル作りが期待されています。
 HAL認証農産物は化学肥料および農薬を削減した栽培の技術化を図っていますから、化学肥料や農薬の製造・輸送に係るCO2排出量は削減されますが、代替する有機質肥料の製造・運搬・散布作業や除草剤に代る機械除草等、新たなCO2の排出が出てきます。「CO2削減技術」の組立てにはCO2全体の収支の慎重な検討が不可欠です。

おわりに

「温室効果ガス(CO2)削減」にはさまざまな要因が複雑に絡み合っていることが理解いただけたでしょうか。研究チームの成果を待ちつつも、私たちはHAL認証農産物の「CO2削減量の表示」と「CO2削減に適した栽培システム」の提案をするべく、精力的に実地調査を進めていきます。その成果についてはまた改めてご報告したいと考えております。
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